EXHIBITION | KYOTO
藤原康博(Yasuhiro Fujiwara)
「記憶の稜線を歩く-Walking the Ridges of Memory-」
<会期> 2022年5月15日(日)- 6月26日(日)
<会場> MORI YU GALLERY
<営業時間> 12:00-18:00 月火祝休
モリユウギャラリーは 6 月 26 日 ( 日 ) まで、 藤原康博「記憶の稜線を歩く – Walking the Ridges of Memory -」 を開催いたしております。
記憶の稜線を歩く
一見一本の線のように見える稜線ではあるが、それは幾重にも折り重なる峰や谷の姿でありそこには複雑に入り混じった奥行きが介在する、視覚が作り出したある視点から見た架空の線であるといえる。
私たちの記憶も似たようなものに感じる。視覚を通して得た情報を網膜で信号に分解し脳内で再構成し必要なものは記憶として残す。そして、それら断片的な記憶の峰や谷を紡ぎ繋ぎながら日々の活動を可能にしていると言える。
時として、その線上を歩いていると思わぬ落とし穴に遭遇する。目には見えない記憶の奥行きである。それは現実と思い込みとのあいだにある差異といえるかもしれない。そうであろうと思い込んでいたところに思わぬ深い谷が存在し見た目とは違う側面に気付くのである。
現実とは案外脆いものなのかもしれない。稜線の両脇に広がる深い谷のように、日常を形作る記憶の足元にも不甲斐谷が存在し認識を覆せる準備をしているように思えてならない。
藤原康博
藤原康博は、記憶などをテーマに、絵画や立体作品を発表してきました。 彼が描く対象は、山や森、寓話の小人や小屋、静物など様々ですが、それぞれの作品は一見すると普段我々が見慣れた風 景にうつるでしょう。しかし、その写実的な作品には独特の雰囲気があります。藤原はこの絵画の源泉を何処から得て、ど のような思考で描いているのでしょうか。 藤原は「私の作品は、崇高なものには程遠いものですが、自分の記憶から何かを少しずつ加えつつ、何かを削ぎ落として いくように描いていきます」と語ります。山がまだ山という名称さえなかった太古の時代に存在していたそれと、自身の記 憶の底から導かれた山の表象との「間」に存在する image を描いていると言えるのではないでしょうか。それは、現実と 人の記憶の間と言ってしまえば、写実絵画の説明のようなあたりまえの話になってしまいますが、藤原の絵画に在る「間」 とは大きな違いがあります。彼の絵画は actual な山と潜在的な山との間にある山であり、質の違いを獲得しつつ、空間だ けでなく、時間を含んだものとしても描かれています。山の白い image は、時間の「間」で浮遊するかのように、物質性 を強調する支持体としてベニヤ板の上に描かれた時、記憶より actual な山に近づきつつもその「間」を保ち、映像のよう に揺蕩っています。また一方、山の image は、キャンヴァス上に描かれた時、自身の記憶により近いものですが、actual な意味からも離れすぎない image として、時間と共に「在る」と言えるでしょう。
我々鑑賞者は、誘われるように、空白としてのその「間」にいつしか没入し、自らの記憶における山と藤原の描く山とを 比較し、彼の潜在的な思考と、現実的な自然における山との対峙によって、さらなる迷宮へと誘われます。 藤原は、国立国際美術館(大阪)で開催中の展覧会『感覚の領域 今、「経験する」ということ』に出品しています (5/22 まで )。 ここでの作品の多くには、2020 年に網膜剥離を発症した彼自身の経験が盛り込まれています。部屋の中のベッドや布団と いったものと窓から見える外の風景が綯い交ぜになったような絵画には、今まで存在していた家という内部と外部の境界が 脆くも崩れ去ったような風景が描かれています。遠くにあるはずの山の image が家の中の布団の山の image と重なり、違 和感なく鑑賞者の眼前にあって、そこにあった山とここの布団の山が同時に立ち上がり一つになっている絵画と受け取れま す。これは、藤原が網膜剥離を患う以前から制作してきたベニヤ板に描かれた山と、キャンヴァスに描かれた山とが重なっ たようなものともとれるでしょう。治療、療養後に描き出した今回の作品群が、さきほど説明した image の難解さを理解 し易いものにしたとも解釈できるでしょう。我々鑑賞者が理解可能で写実的 actual なものと藤原自身の潜性的なものの「間」 にある image は、藤原が語る「記憶の奥行き」という「眼には見えない記憶の谷」にこそ「在る」のです。ときには平面作品に、 ときには立体作品に用意された迷宮という箱の入口が鑑賞者を迎えてくれるでしょう。
どうぞ御高覧ください。
MORI YU GALLERY (モリユウギャラリー)
http://www.moriyu-gallery.com
京都府京都市左京区聖護院蓮華蔵町4-19
tel:075-950-5230