EXHIBITION | TOKYO
シュ・ニン(Xu Ning)
「Season – Letter」
<会期> 2021年1月23日(土)- 2月20日(土)
<会場> TOMIO KOYAMA GALLERY
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
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許(シュ)さんの作品を初めてみたのは国立新美術館の修了展でした。その力強さに驚きました。そのあと、アートアワードトーキョー丸の内で審査をすることになり、以前の作品のファイルを見て繊細さとダイナミズムが交錯した表現に興味を持ち、本人に会って、中国の文学の話やいろんな国の美術の話をしていると、東洋と西洋のミックスの具合がまた日本のアーティストとは違っていて、彼女の観念がキャンバスに血肉となって現れてくるようなそんな魅力を感じます。
小山登美夫
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この度小山登美夫ギャラリーでは、シュ・ニン(許寧)展「Season-Letter」を開催いたします。本展は作家にとって初の個展、また当ギャラリーにおける初めての展覧会となり、3mを超える大作ペインティングをはじめとした情熱溢れる新作を中心に展示いたします。
【シュ・ニン(許寧)と作品について
– 中国の古代思想、ヤン・ファン・エイク、ドルチェ&ガッバーナ、自然の美に影響を受けた、緻密さと偶然性、躍動感あふれる絵画】
シュ・ニンは1979年北京生まれ。北京の首都師範大学油画専攻専科卒業後、2006年家族とともに日本へ移住し、2020年多摩美術大学大学院修士課程絵画専攻修了。同年アートアワードトーキョー丸の内2020グランプリ受賞、第24回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)入選しました。現在神奈川県を拠点に制作活動を行なっています。
作品制作においては、母国中国の古代思想や、ヤン・ファン・エイクをはじめとしたネーデルラント絵画の迫真のリアリティ、ドルチェ&ガッバーナのファッションの装飾と革新性や、自然の美、生命の儚さなど、時代や国境、ジャンルを越えた事象から多くの影響を受けてきました。
大きなキャンバスに、面相筆(穂先のきわめて細長い筆)で色面や線を一筆一筆重ねて描きあげるという驚くべき緻密さ。と同時に、ドリッピングによる絵の具の跳ねや垂れの偶然性も共存させます。また、絵の具の色の鮮やかさ、盛り上がりと白いフラットな部分の対比により作品に躍動感と迫力を生み出しています。
作家本人が「私にとって、何故絵を描くのかと何故生きるのかは同じである」と述べるように、許作品には世の中のあらゆる出来事に真摯に向き合い、自分とは、真実とはなにかを絵を描くことで追求しようとするシュ・ニンの折れない信念、豊かな感情と様々な愛、一筆の積み重ねが織りなす果てしない時間が表われているのです。
【本展「Season-Letter」と出展作について
-原色の純粋性、四季がもたらす自由と勇気】
作品を鑑賞し、まず目に飛び込むのは、白いキャンバスに勢いよく描かれた赤、ピンク、青、緑、黄色といった原色的な華やかな色彩です。作家にとって原色は、「春に芽生えた新鮮な葉っぱが目の前の風景を切り広げるような」眩しい純粋性を表しているといいます。
また一見抽象表現に見える作品の細部に目を凝らすと、赤い色面に絵の具の盛り上がりで西洋建築が描かれていたり、細い流麗な線が葉や花びら、蝶や鳥、手のようになっていることに気づきます。特に「手」は、中国において「十指連心」という言葉もあるように手、指は心に繋がり、心を表すと考えられており、作家にとっても重要なモチーフの一つです。
本展覧会名は、シュ・ニンが大学院2年目の際制作した作品名と同様のものとなっています。
その「Season, Letter」という作品は、初めて2枚200号の大きさのキャンバスに挑戦したものであり、キャンバスの大きさが自然の広大さを喩えています。四季の変化は作家に時間の経過を気づきかせ、「人間が生きている意味」を問いかけ、勇気と感動を与えてきたものであり、その素晴らしさを手紙のように鑑賞者に届けたいと言います。
作家本人、自身の作品に対して次のように述べています。
「私は絵画を通じて自由を追求している。画面に表した線たちが、時に面になり、時に細い蜘蛛の巣の糸または髪の毛になり、自由な思いへ変化していく。私の画面に花がさく。時に雨が降る。時に川に沈む。時に鳥に転換していく。画面から鳥のように見えて、鳥を描き出したのではなく、筆の手数が重なって、鳥が現れたことがある。私の自由はもしかしてそこにある。」
【シュ・ニン作品における相対する部分の両立とバランス
-色と陰陽の思想】
シュ・ニン作品の華やかな色彩の中でも、特に赤色は印象的に使われています。それは生まれ育った中国の陰陽五行説において赤色が吉祥をあらわす色だということ、またネーデルランド絵画中心とした宗教絵画の研究の中で、赤色が血の象徴で救済と愛をあらわすと言われていることも影響しているといいます。
彼女の作品には、東洋と西洋、抽象と具象、繊細さとダイナミズム、緻密さと偶然性、画面のフラットな部分と絵の具の盛り上がり、画面の余白の白と、色面、描線とカラフルさといった、相対する部分が両立し、独特のバランスと迫力を生み出しています。そこには生まれ育った中国の陰陽の考えが無意識にあると言えるでしょう。
ものごとの両面性。月は新月から満月に満ち欠けを繰り返し、事物は始まりがあるから終わりがある。人間は生まれてきたから必ず死を迎え、生きていることは幸せなこともあれば悲しいこともある。これらは相反しつつも一方がなければもう一方は存在し得ない、調和して初めて自然の秩序が保たれるものです。
中国で生まれた陰陽の思想は、5~6世紀頃日本に伝わり独自の発展をとげました。中国で生まれ育った許が、第二の故郷である日本の自然の豊かさや人の優しさを愛し、情熱を持って春一番の新鮮な緑をすべての人々の心の奥深くまで届けようとしています。新年最初の展覧会にふさわしい、同時代を生きる作家のエネルギーをご覧にぜひお越しください。
TOMIO KOYAMA GALLERY(小山登美夫ギャラリー六本木)
http://tomiokoyamagallery.com/
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
tel:03-6434-7225