ワンダフルスマイルのために 第3回
アイデアの種
文●ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
アイデアの種
文●ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
ワンダフルスマイルのために: 第1回/第2回/第3回/第4回/第5回/第6回
●もう一度おさらい
連載の第1回目でもお話したように、ワークショップは「手法」です。つまり、「やり方」のひとつ。例えば、病気を治療するのに、投薬でいくのか、手術をするのか、患者さんの病状や要望によって治療方法を使い分けたりしますよね。何か目的(この場合は病気の治療)があって、それを解決する為に、ある方法を選択する。ワークショップはそうした目的に向け選択する方法のひとつです。ワークショップという目的があるのではありません。
ですので、美術館などで、講義や講演会、造形教室、ギャラリートークなど様々な催しが開催されますが、これらにおいて、教える、教えられるといった役割を設けず、「双方向の関わりあい」をもちながら、参加者同士の異なる発想や意見、経験などからお互いに学び、それによって「一人ひとりが変化」し、「集団での創造的な活動を形成」していき、かつそのプロセスを重視する、という場作りを目指すのであれば、ワークショップという手法を用いるのが適当だということです。
また、ワークショップは必ずしも万能薬というわけではないので、例えば、美術館などで何人もやってくる来館者に効率よく作品について解説したいということであれば、作品解説シートや音声ガイドを作成し配布するのが適当でしょう。さらに、ワークシートなど作品の見方のヒントや手助けをするツールを作るのも方法のひとつです。その場の目的や状況に応じて「やり方」を選ぶことが大切だと思います。なんでもかんでも「ワークショップで」ではないのです。
●ワークショップのつくり方?
最近は、いろいろな場所に呼ばれて、「ワークショップのつくり方」についてお話して下さいと依頼される機会が増えました。でも、ワークショップのつくり方を話すといっても、一様に決まったつくり方があるわけではありません。その場の状況や環境、対象や目的によって異なってきます。準備する道具や材料、進行方法なども変わってきます。ですので、過去に行った事例を紹介し、それぞれの場合のやり方についてお話させていただくことがほとんどです。
た だ、ワークショップを進めていく上でいつも意識していることはあります。自分でやっていると気がつかないことも多いので、たまに忘れることもありますが(笑)。
例えば、僕は子どもを対象にしてやることが多いので、だいたい次の五つのことを意識して進めています。
まず、第一に「子ども達の安全確保」です。外での活動が入る場合は、車の往来などには特に気をつけています。その他、ちゃんと初めの人数がいるかどうか、迷子になっていないかなど常に確認をしています。
二つ目は「子ども達に対し“一個性”として接する」よう心がけています。子どもといえども一個の人間です。さまざまな個性があり、ワークショップは学校教育とは違いますので、みんながみんな同じ成果や結果をださなくても一向に構いません。むしろ人と違っている事の方が大切で、個人、個人のやり方、考え方を尊重するようにしています。
三つ目として、「子ども達と同じ目線にたつ」ということ。これは物理的な場合と精神的な場合に分けられます。物理的にとは、自分の身を屈め、もしくはしゃがんで目線をその子と同じ位置に持っていき、お話します。特に小さい子の場合、上から見下ろしてお話するとどうしても威圧感がありますし、上下関係のようなものが出来てしまいます。でも、最近は小学5、6年生ともなるとすっかり大人の背丈と同じ子もいるので、そうした配慮がいらない場合もたまにあります。
精神的にとは、しょせん子どもの発言と思って軽々しく接したり、大人面をして話を聞かないということです。一緒に悩み、一緒に考え、一緒に解決方法を本気で探ります。ワークショップでは、だれが大人でだれが子どもといった垣根はありません。あまりに子どもと同じ様にはしゃいでいると、子どもから「あんた大人でしょ?」と冷ややかな目でみられることも……反省。
四つ目に、「感動を共有する」こと。驚いたり、感心したり、笑ったり、泣いたり、何に対しそうした反応をしたのかを探り、こちらも同じような感覚を憶えた場合は、一緒に共有します。そして、一人ひとりの発言や発想で「キラリと光るもの」を汲み上げ、時にはほめて他の子の前で紹介します。
ただし、感動はひとそれぞれなので、全く同じ感じ方をするかどうかはわかりません。ましてや、感動しなさいと強制するようなことはできません。あくまでもその子の「キラリ」に注目することが大切で、その子の自信にもつながると思うのです。
最後に五つ目として、「子ども達の意欲や表現(発想)を受け入れる」ようにしています。大人はいろいろな技術を持ち合わせていたり、経験的に知っている事も多いので、ついつい自分の知識や技術、概念を先走って伝えてしまったり、手を出して作ってしまったりすることがあります。とりあえず、子どもがそうしたいと思っているのであれば、だまって様子を見てそれに挑戦させる。やってみてうまくいかなければ次の方法を一緒に考える。または、他の仲間と一緒に悩んでみる。完成しないこともあるでしょう。
でも、それで良いのです。ワークショップでは、体験した過程が重要なんです。
このようなことをワークショップの最中は、意識するように心がけています。でも、いちいち立ち止まって確認しながらやっていては、子ども達との会話もぎこちなくなってしまうので、場を重ねて慣れることが一番ですね。自然と無意識のうちにできるようになるのが理想です。
●お風呂と自転車
さて、やり方は時と場合によって異なると書きましたが、やり方のその前に、もっと大切なことは、何をやるか企画を打ち出すことです。これがないと始まりません。あれやこれやといろいろなアイデアをひねり出す訳ですが、この時間が結構大変なのです。でも、一番楽しい時間だったりもします。
僕がワークショップのお話などをさせていただくと会場から必ずと言っていい程「アイデアはどうやって出てくるのですか?」という質問を受けます。自然に思い浮かぶとしかいいようがないので困ってしまいますが、思い浮かぶ瞬間というか、シチュエーションが僕の場合あります。それは、「お風呂」に入っている時と、「自転車」に乗っている時です。特に行き詰まった時には、これらのどれかをやるとパッとひらめいたりします。あくまでも僕の場合ですので、自分もやってみたけどダメだったといって苦情をいわないようにお願いしますね(笑)。
ずっと同じ姿勢で椅子にすわり、机に向いウンウン悩んでいないで、違った事をして頭を切り替え、リフレッシュさせるためにこれらのことをするのですが、僕の場合、こうしている間ももやもやと考えながらやっているように思います。例えば自転車に乗って爽快に走り、今問題としていることをもやもやと思い浮かべていると瞬間的に「はっ!」とひらめいたりします。その時はすぐに自転車を止め忘れないうちにメモをとるようにしています。お風呂場でもそうです。湯船につかり立ちのぼる湯気をみながら、もやもや考えていると「ふっ」と思い浮かんだりします。やはり忘れないうちに早くお風呂から上がりメモします。
それから、コレは何か役に立つかもしれないというアンテナを常にはっていることです。「面白いな」とか、「何だこれ?」とか、「これは使えるかも」と気になる事はとりあえずメモをしたり、イメージを描いたり、写真などに記録して残しておきます。なので、僕の机の上には何だかわけのわからないメモ用紙が散乱しています。後で読み返すと大抵やっぱり何だかわからないことが多いです(笑)。でも、そんな中にアイデアの種は落ちているものです。
●アンテナの成果
アンテナを張るといえば、過去にこんなことがありました。それは、北海道のある寂れた商店街の活性化プロジェクトにアニメーション作家の松本力さんと一緒に参加したときのお話です。商店街からは地元の小学生たちと一緒に活動する企画を求められていたので、さっそく地元小学校に伺い、プロジェクトの協力のお願いと校内見学をさせてもらいました。すると、6年生の教室の廊下の壁に新聞係の子ども達が作った学級新聞が張り出されていました。「好きなマンガベストテン」、「心理占い」、「四コママンガ」、「学校の時事ネタ」などなど、今時の小学生の生活や関心毎が垣間みられる内容で構成されていました。読むととても面白く、なにより子どもたちの言葉使いや、文字を飾る表現がとても新鮮でした。また、文中の「はなしかわっちゃいますけど……」と話題をかえる表現が独特で、思わず可笑しくて読みながら吹き出してしまいました。この学級新聞は、とても気になったので写真に記録しておきました。
後日、学校教員を交えプラン説明会を実施したのですが、どうも皆さんの反応が芳しくありませんでした。特に校長先生が乗り気ではなく途中退席。どうやら内容云々というよりもすでに授業カリキュラムは確定しており、我々が希望する実施時期との調整が難しいということで、学校全体をからめた実施は無理だと断られてしまいました。
結局、学校との連携ができなくなり、でもなんとか小学生たちと一緒にできないかと考えていた時に、例の学級新聞のことを思い出したのです。こんなユニークで面白い新聞を作った子ども達とだったら個人活動扱いで一緒に参加してもらえるのではと。
再び学校に連絡し、学級新聞を作った新聞係の子ども達を起用したいとお願いしてみました。すると学校側からは、放課後の活動ということであれば、学校も終わっているので問題はなく、あとは子ども達さえ良ければというお返事をいただきました。幸い新聞係の(当時)六年生の女の子四名と彼女達のお友達一名は、僕らの企画に興味を持ってくれて無事スカウトに成功しました。
その後、僕と松本力さんとで、この女の子達を「タイムスガール」と名付け、彼女達の独自の視点とノリで商店街を取材してもらい、街の新聞を制作してもらうプロジェクトが遂行できたのです。結果はいうまでもなくとてもすごい内容の新聞ができあがり、商店街の人々に向けた完成発表会では、たくさんの方が見に来てくれました。
このように、ワークショップのアイデアの種は、いつどこに落ちているかわかりません。常日頃からただ漠然と生活するのではなく、いろいろなことに目を向け、気にしながらいるとたくさんヒントはあるものです。とにかく「好奇心は旺盛に」です。
次回は、そうした日常生活に目を向けみつけたアイデアの種から誕生した病院でのプロジェクトにまつわるお話をしたいと思います。
「タイムスガール」の面々。北海道の商店街活性化プロジェクトからの一コマ(2004年)
■プロフィール:ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
1998年より、日常生活におけるアート体験や作品と鑑賞者をつなぐため、主に子どもを対象としたワークショップ・プログラムを企画し、全国各地の美術館、美術展、保育園、小学校、社会教育施設、病院などで実施。近年は、ワークショップの経験を活かしアートボランティア研修会、講習会などに指導者として携わり、人材育成にも努めている。