ワンダフルスマイルのために 第1回
ワークショッププランナーという仕事
文●ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
ワークショッププランナーという仕事
文●ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
ワンダフルスマイルのために: 第1回/第2回/第3回/第4回/第5回/第6回
いまや美術館・博物館での展覧会において、ワークショップが行われるのは当たり前。当初は、美術家や学芸員が作品解説を行う等の、いわば鑑賞者を教育するものが多かった。しかし、年々その内容は多岐にわたり、美術に参加・体験するといったものが中心になってきている。
今回の連載では、実際にワークショップを企画・実践しているゴウヤスノリ氏が、ワークショップの現場を自らの体験をもとに伝える。(編集部)
●初めまして
みなさん初めまして。今回から連載(全6回)を始めさせていただくことになりましたワークショッププランナーのゴウヤスノリと申します。どうぞよろしくお願いいたします。その前に僕の姓ですが、「ゴウ」で切って下さいね。よく「ゴウヤ」さんと呼ぶ方もいて、沖縄の方ですかって聞かれることもしばしば。違います(笑)。
この連載では、僕がこれまでに実施してきたアート系のワークショップや現場にまつわる出来事、僕の経験から感じたことなど、かなり個人的な見解で語らせていただきます。なので、時には暴走もあるかもしれません。そんな時はどうぞお許しを。でも、何かありましたら編集部宛までご意見をお寄せ下さい。
さて、本題に入る前に、ゴウって誰だという方も多いと思いますので、簡単に自己紹介を。アートに関心を持ち始めたのが今から20数年前の中学生の頃です。以来ずっとアートが好きで、大学生時代には、自ら版画作品を作っていたこともあります。といっても、美大に行っていたわけではありません。大学では理学部で生物学を専攻していました。毎日白衣着て、実験室の暗室にこもって小さな小さな世界を眺めていました。もうこの辺からしてかなり怪しいですね(笑)。僕の中ではアートも生物も一緒なんです。生き物の姿形、行動、生態、顕微鏡下で観る細胞の世界、実験器具の数々、とてもとても魅力的で、美しく感じます。特に好きだったのが解剖の授業。見たままをスケッチするのですが、もう心眼がバッチリ開眼していますので、教官にはいつも「心の目でみてはいけない」とスケッチを突き返されたものです。でも、ひるまずに「僕には見えます」と理想と現実の狭間で格闘の日々でした。大学卒業後は、もっと怪しくなります(笑)。生物学を出ると教師になったり、薬品会社や食品会社に勤めるのが王道なのですが、僕の場合、アート好きが講じて、運良く画廊に就職し絵画販売の営業を行っていました。しかし、運悪く入社半年で倒産。社会人一年目、いや半年の僕にはかなりの衝撃でした。世の中って・・・。そうこうする内に次の就職先も見つかり、紆余曲折を経てサラリーマン時代の最期(?)は、某美術情報雑誌の編集部に潜り込みます。その後フリーランスのワークショッププランナーとして今にいたっております。と少々駆け足ですが、そんな感じです。
●ヒット件数16,000件
さて、第1回目は、ワークショッププランナーというお仕事について。その前に、「ワークショッププランナー」という言葉、Googleで検索してみたところヒット件数約16,000件。上位40件を超えたあたりから、「ワークショップ」と「プランナー」という言葉がばらばらでヒットしてきます。このことから考えても、「ワークショッププランナー」というひとくくりの言葉の認知度は相当低いものと思われます。たぶんこれを読んでいるみなさんも「どんな仕事だろう?」とお思いの方も多いのではないでしょうか。かくいう僕もこの肩書きは、自分で勝手に作っていい出したのですから、他に同様の肩書きでお仕事をされている方が、同じ仕事をしているかどうかは正直わかりません。ですので、初めにお断りしておきますが「僕のやっている」ワークショッププランナーという一連の仕事のお話になりますのでご了承下さい。
この仕事を始めてかれこれ8年が経ち、9年目に突入しようとしています。僕のやっているワークショッププランナーのお仕事とは、一言でいいますとワークショップのプログラムを作り、実施する仕事です。最近は、美術館や博物館でワークショップという言葉も定着しているようですが、まだまだ一般的ではないと思います。その証拠に、「どんなお店?」と聞かれることが未だにあります。たぶん、「ワークショッップ」という言葉の意味を知っているみなさんが頭の中に描くイメージは、それぞれだと思います。違っていて当然です。参加する人や目的、場所が違えば変わるものですから。でも、ワークショップというタイトルが付いていても、「ホント?」と疑いたくなるような場合もあります。例えば、単なる講演会だったり、会議だったり、説明会だったりすることもままあります。講師を囲んで人が集まってお話することが、ワークショップだという受け取り方をなさっている方もいるのかもしれないですね。
●「ワークショップ」について
ではここで、一度「ワークショップ」という言葉についておさらい。英語ではWorkShopと書きます。本来は、「工房」、「作業場」などの意味です。アメリカやイギリスで古くから行われていて、アートの分野では、ダンスや演劇などで盛んに用いられている「手法」です。
「教える・教えられる」というような、誰かが指示を出し、参加者がそれを待っているだけではダメなんです。必要な技術は教えるけれども、「双方向の関わりあい」をもちながら実際にやってみて、参加者同士の異なる発想や意見、経験などからお互いに学び、それによって「参加者一人ひとりが変化」し、「集団での創造的な活動を形成」していくというものです。
また、ワークショップには、起・承・転・結などの「ストーリー性」があります。つまり流れがあるということです。しかし、プランはぎちぎちに作り込まない。どこか余白のような部分を残しておく。だって、参加者は人間ですから、こちらが、いくら起こりうることを事前にあれこれ想定しても、必ずといって良い程、参加者は予想しない発言や行動をします。それに臨機応変に対応していかなくてはなりません。こうした参加者一人ひとりの反応が大切なんです。あとで触れますが、場を進めて行く人、ファシリテーターは、場の状況を瞬時に判断して進めて行く必要があります。なかなか場慣れしていないとそう簡単にできるものではありません。さらに、ワークショップでは、結果を求めるのではなく、そこに至までの過程(プロセス)を大事にしていますので、ファシリテーターは、常に参加者の発言や行動には気を配る必要があります。
そして最後に、なによりも「やる理由があること」。つまり目的をもってやるということ。なんかワークショップって流行っているし、やってみたいよね、といったノリで始める方も多いでしょう。やるのは大いに結構。でも、それにはちゃんと目的があって、それを達成するために(別に達成しなくても目指だけでもよいと思いますが)ワークショップという手法を用いて行うのです。そう、ワークショップは目的ではなくて「手法」です。他に何か目的達成のための良いやり方があれば、何もワークショップでなくても良いのです。
ワークショップをすすめるスタッフにも触れておきますね。ワークショップをやる場合、プログラムを組み立てる「プランナー」、アーティストやスタッフ、場を取りまとめる「コーディネーター」、そして実際に場を進行していく「ファシリテーター」が必要になります。僕はフリーでやっているので、全てを兼ねる場合がほとんどです。また、大抵参加者をグループに分け、そこに最低1人、グループのまとめ役としてグループリーダー(スタッフ)を付けるようにしています。まあ、この辺の関係性も、その時々の状況で変わるので一概にそうとはいえませんが、だいたいこんな感じです。
「笑顔面」。大阪市大病院でのワークショップ(2005年)からの一コマ
●ワークショップにアーティストは必要?
アートに関連したワークショップをやっていますというと、「アーティストはだれですか?」と尋ねられることがあります。たいがい美術館で行われているワークショップでは、「講師」が「アーティスト」という場合が多いので、そうした質問がでるのだと思います。もちろん、アーティストと一緒にやることもありますが、僕の場合は、やらないことがほとんどです。全てのアーティストの方がご自身でワークショップのプログラムを作ることができるとは思いません。彼らの作品や考え方を題材にしたり、もうこの世にはいないアーティストの作品を題材にワークショップを行うことはできます。そんな時は、当然アーティストは存在しないですよね。また、現役のアーティストの中には、口べたな方もいるし、人前に出るのが苦手という人もいます。緊張しながら、もぞもぞ、ぼそぼそとやられて楽しいですか?
僕はこれまでに40近いプログラムを実施してきましたが、過去にアーティストと組んでやったのは2人しかいません。その2人というのは、イタリア在住の日本人アーティスト・廣瀬智央さんとアニメーション作家で絵描きの松本力さんです。廣瀬さんは、それまでワークショップの経験がなく、はじめ一緒にワークショップをしたいと持ちかけた時はあまり良いお返事をもらえませんでした。でも、どうしても廣瀬さんの作品世界が必要不可欠だったので、説得しワークショップの実現にこぎつけました。
一方、松本さんにいたっては、すでにご自分でワークショップを数多くこなしている方です。現場もみせてもらっていましたが、なんか僕の視点も取り入れて一緒にやるともっと面白い事ができるかもと思い、とある商店街のプロジェクトの際にお誘いし、一緒にやってみました。結果、僕も松本さんもお互いに影響しあいながらとても面白いプログラムができました。この方達とのワークショップの詳細は、また別の回にじっくりとお話させていただきたいと思います。
特にアーティストの方と一緒にやる回数が少ないのは、アーティストが嫌でやってこなかったわけではありません。たまたまアーティストと一緒にやる必然性がなかっただけです。アーティストの方と一緒にやる場合は、僕がプランナーとして介入し、一緒にプログラムを作り上げていきます。もちろんアーティストの中にはプログラムを組み立て、場の進行にも長けている方もいます。また、ワークショップそのものが自分の表現方法のひとつであるとして活動している方もいます。みなさん素敵なプログラムを実施しているので、僕も大いに刺激を受けています。
ちなみ、僕の好きなワークショップに長けたアーティストの方を何人かご紹介します。
1人目は、KOSUGE1?16(土谷享、車田智志乃の2人組のアーティストユニット)さん。スポーツを取り入れた、笑いの要素もあるプログラムを得意とします。
2人目は、磯崎道佳さん。「コミュニケーション・ツールとしてのアートの力」を重視し、ガキ大将的な楽しい世界を展開しています。
3人目は、小山田徹さん。パフォーマンスグループ「ダムタイプ」の企画構成、舞台美術を担当し、現在こちらの活動は休業中のようです。とにかくほんわか、なごみ系で丁寧に作り込まれた場の雰囲気が抜群です。
●「ワークショップ」は「ワンダフル・スマイル」
さて、僕がワークショップをやる目的は何か。ここら辺をちゃんとおさえておかないと、なんだかワークショップについて、ただ苦言を呈しているように聞こえてもまずいのでお伝えします。目的は今のところ大きくふたつあります。今後増えたり減ったりするかもしれないので、今のところは、です。
僕は小さい頃からアートが好きで、特にみるのが大好きでした。俗にいう鑑賞ってやつです。なんだかひとりでこんな面白い世界を楽しんではもったいない。もっとたくさんの人に知ってもらいたい、伝えて行きたいと思うようになりました。つまり、「アートとそれを見る人とをつなぐ役目をしたい」と考えるようになったのです。簡単にいうと普及活動ですね。これが目的のひとつです。他に、アートって物の見方や考え方を変えたり、今まで気がつかなかったことに気がつかせてくれるものだと思うんです。世の中を違った視点や尺度で眺めてみるというか。なので、別に作品がなくてもいんです。日常生活の中でアートだなーと思える瞬間やそうした目で世の中を見てみる楽しさや気づきを誘発することを目指しています。これが目的のふたつ目。(最近は「アートの力」で何が出来るのかという新しい自分の中での課題もでてきています。このことについては長くなるので別の回でお話していきます。)
僕がワークショップをやる目的を語ったところで、なぜワークショップにいきついたのか、その辺をお話しましょう。僕は、サラリーマン時代自分の人脈を頼りに、絵画の修復家や画廊経営者、学芸員などアート関係者を招いて一般向けにレクチャーを企画していたこともあります。でも講師が一方的に話して、観客もだまって聞いている。今ひとつ反応がわからない。もんもんとストレスがたまっていくいっぽうでした。そんな中、かれこれ10年くらい前の話になりますが、ある日友人に誘われ世田谷美術館(以下セタビ)で行われていた、館内や建物のバックヤード(収蔵庫とか機械室とか)をクイズ形式でめぐるオリエンテーリングに参加しました。これがすごく楽しかった。担当の学芸員さんと、その日出会った見知らぬ参加者が一体になって盛り上がっているんです。アートやアートの現場を伝えるってこんなやり方もあるんだってただただ興奮したのを憶えています。正直この頃はまだワークショップという言葉も知りませんでした。これがワークショップかといわれればちょっと違うと思いますが、でも、なんか自分の中で光が射して来たんです。以来、セタビで行われている主に子どもを対象とした教育普及のプログラムにスタッフという形で関わらせて頂き、約2年間、勝手に修行させてもらいました(笑)。
子どもたちと一緒に館内を探検したり、展覧会の作品を使って遊んだり、そうした活動を通じていろいろな発見がありました。特に子どもという生き物に触れ、これが実に新鮮でした。子どもたちの発言一つひとつが面白く、毎回驚きの連続でした。へー子どもってこんな見方をするのか、逆にこっちが勉強になるなーって。以来、僕にとって子どもというのはアートの面白さを伝えたい対象のひとつで、小さいうちからアートに触れさせれば、アートに対する免疫のようなものができ、彼らが将来大人になった時に、きっとアート好きでいてくれるに違いないという希望をもつようになりました(でも、すぐには大人にならないので、その効果の程はまだわかりませんが)。なので、僕のやるワークショップでは、子どもを対象にしたプログラムが多いです。もちろん大人対象の場合もありますよ。なにより子ども達が見せる楽しそうな「笑顔」、何かに気がついたり、発見した時の得意げな「笑顔」、毎回たくさんの「笑顔」に囲まれます。この「笑顔」にであうのが楽しくて、僕もワークショップの虜になっているのだとつくづく思います。
そこで、最近は僕なりの「ワークショップの定義」を考え出し、いろいろな場面でお伝えしています。それは、WorkShop=WS= WonderfulSmile。「ワークショップ」=「ワンダフル・スマイル:素敵な笑顔のために」です。今回の連載のタイトルにも付けましたが、僕はどうも、先述の目的以外に、この素敵な笑顔に出会うためにワークショップをやっているのだと、この頃感じています。
次回からは、これまでに行った具体的なワークショップのプログラムについてお話を進めていきたいと思います。さてさて、どんな笑顔に出会ったのでしょうか。
■プロフィール:ゴウヤスノリ(ワークショッププランナー)
1998年より、日常生活におけるアート体験や作品と鑑賞者をつなぐため、主に子どもを対象としたワークショップ・プログラムを企画し、全国各地の美術館、美術展、保育園、小学校、社会教育施設、病院などで実施。近年は、ワークショップの経験を活かしアートボランティア研修会、講習会などに指導者として携わり、人材育成にも努めている。