EXHIBITION | TOKYO
小谷元彦(Motohiko Odani)
「i n v a s i o n」
<会期> 2023年1月21日 (土) – 2月18日 (土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 11:30-18:00 日月祝休
ANOMALYでは、1月21日(土)より2月18日(土)まで、小谷元彦個展 「i n v a s i o n」を開催いたします。
小谷元彦(おだにもとひこ b.1972)は、1997年P-Houseでの個展「ファントム・リム」でデビュー、リヨン、イスタンブール、光州のビエンナーレへの参加を経て、2003年ヴェネチア・ビエンナーレで日本館代表となり、またサンドレット財団(トリノ)、アートソンジェセンター(ソウル)、森美術館(東京)、キアズマ現代美術館(ヘルシンキ)などのグループ展でも発表を続け、国内外を問わず大きな評価を得てきました。
その作品は彫刻に留まらず、写真、ヴィデオ、インスタレーションなど多岐に及び、メディアを限定しない多彩な表現方法により制作することのできる、類い稀な作家です。
2009年銀座メゾンエルメス フォーラムでの個展、2010年には森美術館での個展「幽体の知覚」(静岡県立美術館、高松市美術館、熊本市現代美術館に巡回)で、身体感覚を揺さぶる大型インスタレーションや彫刻、ヴィデオ作品を発表し、「身体」という概念に「幻影」を抱かせる強い感覚を来場者に与えました。
その後、2013年スウェーデンのフォトグラフィスカでの個展、また2013年金沢21世紀美術館、2014年東京都現代美術館、2016年国立国際美術館、2017年テグ美術館(Daegu Art Museum)のグループ展等に参加。また近年、瀬戸内国際芸術祭2022では女木島(通称鬼ヶ島)に「こんぼうや」を「開店」、同年ポンピドゥ・センター・メッスのグループ展に参加するなど、精力的に活動を続けています。
3年半前のANOMALYでの個展「Tulpa – Here is me」では、「私はここにいるけど、私であって、私ではない」という自己の死のポートレイトとしての彫刻を発表。1997年のデビュー個展から現在に至るまで、身体とその感覚の幻影(ファントム)が、小谷元彦の作品の根幹を貫く一つのテーマとなっています。Tulpaのシリーズの作品に登場する五芒星は、古代エジプトではヒトデに星を重ね、星に子宮を重ねて死生観を表したもので、小谷はこの五芒星に変容の記号を感じ、前回の個展のモチーフとしました。
また2022年リボーンアートフェスティバルではマカバ(*1)の形のライトを頭部に冠したおよそ6mの巨大作品を発表し高評を博しました。
今回の個展は、3年越しで制作された新作長編映像作品の発表、および昨年発表した立体と短編映像作品で構成される展覧会です。
本展タイトルでもある新作長編映像《i n v a s i o n》は、催眠術に使われる渦巻きがアイコンになっていますが、「回転」を表すフォルムは、かねてより繰り返し小谷の作品に使われている形です。
古い催眠術の本から採用した回転の図像は、漫画『デビルマン』に登場するサイコジェニー(*2)を思わせ、漫画作中では「催眠」と「覚醒」、両方の合図として使われています。また回転形は脊椎動物の内耳にある渦巻管にもみられ、動物をモチーフとして多用してきた小谷にとって重要なフォルムといえるでしょう。
今回の渦巻きが意味するものは、催眠、覚醒、または変化、もしくは「振り出しに戻る」か。本作では時間を跨ぎながら、渦巻きが多様な意味の暗喩として使われていますが、全編を通じて魔術的なものを象徴する紋様として機能しています。
18世紀、フランス革命やドイツロマン主義運動に影響を与え熱狂的ブームになりながら精神医学から黙殺されたドクター・メスメルは、人体への惑星の影響について、生命の健康は自由な「流体」の流れ・循環が大事とし、催眠療法でも知られています。彼が治療に取り入れた「催眠」は一方で魔術的な行為であり、一種のトランス状態を誘発し、宗教体験とも親密です。本作で小谷のいう「魔術」は、医学と自然科学の別の捉え方と考えられます。
本作中には他に、エジソンやフロイトの肖像画や、パブロフのモニュメント、軍用電話機、無線機などが登場します。白熱電球や電話機、蓄音機の開発(*3)は科学的な躍進ですが、光を発するガラス球や、遠くの声が耳元で聞こえる受話器や無線機の普及は、当時とても魔術的に受け取られたのではないかと想像できます。科学はかつて、魔術という概念と案外近しいものだったのかもしれません。
また本映像作品では同時に「信じる」ことが極めて個人的なこととして提示され、監視カメラで監視された合理的な世界の裏側で起こっている、本人による本人の再魔術化として描かれています。
アイデアを思いついた後、直感的に制作は2020年だと感じた。日本は令和へと元号を変え、2020年という区切りの数字で東京オリンピックが行われる予定だった。それらには「未来」への「希望」という意味が含まれていただろう。しかしながら、コロナという感染病が2020年、全世界に襲いかかり先行きの見えない暗雲に覆われたままだ。制作もその影響下で、転々と撮影を繰り返し、コラージュを作るように編集していった。結果、作品を発表するのはワクチン反対派デモが行われ、ロシアとウクライナの戦争が勃発し、元総理大臣が銃撃されて、ようやくこの年の上映に至った。作品がなんらかの未来を含んでいたのか、含まれてしまったのかはわからない。
「水、催眠術、カルト宗教」など幾つかの要素が映像内で輻輳している。意図的に映画の様な心理描写を行わず、感情移入させるような構造は排除した。重要なのはリツイートのマーク。この回転するような文様は様々な意味の暗喩として映像内で使用し、幾つもの意味を持たせている。(生まれ変わり、役割の順番、真実の変化、同じ場所に戻る、など。)
人はなぜある特定の対象を信じるのだろうか、自分の信念の外側は敵とみなすのはなぜか。そこには本人しか理解できない道理がある。オカルトを否定し、科学だけを強く信じても、その合理性が追求される世界の裏側で再魔術化が始まる。現在の世界は拮抗するどころか、対立がより深まっていることを強く感じさせる。
最後に私がこの作品を作るきっかけとなった文章をここに抜粋したい。
「全体主義の亡霊が人々の心をとらえ、排除と戦争へと暴走させるのは、多くの人々が自分の頭で考える余裕をなくし、受動的な受け売りを、自分の意思だと勘違いするようになったときである。そのとき同時に見られる兆候は、白か黒かの決着をつけようとする潔癖性が亢進し、独善的な過剰反応が起きやすくなるということである。」
岡田尊司『マインド・コントロール 増補改訂版』文春新書、 2016年、p.285
小谷元彦
i n v a s i o n (2020−2022)
制作に3年を費やした、小谷元彦初の長編映像作品の発表です。
みなさまには是非本展のご高覧を賜りたく、ご来駕をお待ちしております。
ANOMALY(アノマリー)
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