EXHIBITION | TOKYO
津上みゆき(Miyuki Tsugami)
「そこに在るのは些細なこと」
<会期> 2019年11月22日(金)- 12月21日(土)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 11:00-18:00 / 金:11:00-20:00 日月祝休
ANOMALYでは、11月22日(金)より12月21日(土)まで、津上みゆき個展 「そこに在るのは些細なこと」を開催いたします。
津上は、作品タイトルに“View” と冠し、独自の風景画を描き続けています。眺めや風景、光景だけではなく、 見方、考え方といった意味を持つこの言葉を軸に絵画における視座を広げていきます。
制作は、縦14×横9cmのノートブックにスケッチをすることから始まります。通電設備がなく自然光のみで仕事を続けた倉敷での滞在(2005年大原美術館によるアーティスト・イン・レジデンス)をきっかけに日々のスケッチが彼女の日常となりました。かきとめられるものは様々で、共通することといえば、自分と同じ地平にある現実の対象が存在し、眼差しを向けているということだけかもしれません。
見るという行為には、何を?という問いが生まれます。津上も同様に、自身が描いたものはなんだったのか、なぜ描こうと思ったのか、描いた後に見えているものは何か、スタディを重ねながら思考を整理し、線、点、色など絵を構成するものを精査していきます。我々の前に現れる作品は、画家の眼差し、思惟、時間の集積 を通した現在または現在進行形であるといえます。
宗教画や歴史画こそが「絵画」であると認識されていた時代、戸外に出て風景や日常の風俗を描いた画家たちは疎外されていたといいます。それは芸術ではない、と。そこには内と外、聖と俗との圧倒的な境界がありました。それは芸術を理解し、享受するべきと自ら考える人々が作った大きな壁だったと言い換えられるかもしれません。しかし、日常≒人々の営みの中にも文化がある、この事実が広く風景画を認知させるに至った要因のひとつだったのではないでしょうか。
2019年、津上は神奈川県立近代美術館、群馬県立館林美術館、台北市立美術館でのグループ展、長崎県美術館での個展、その他ギャラリーでの展覧会と多数の発表の機会に恵まれました。また1年間史実に基づいた連載小説*の挿画のため定期的に彼の地に赴き描くという稀有な機会は、自らの風景画の取り組みを再考する形となりました。彼女が様々な土地で多角的に取材し、純粋な視覚情報である絵画に集約させた作品の数々は、鑑賞者の持ついくつもの風景と重なり作品との対話が生まれました。
制作を続けるアトリエ、滞在するいくつかの土地、彼女の内と外といえる場所は見るという行為によって地続きとなり、ひいては数百年続けられてきた風景画の道であるといえるかもしれません。長崎県美術館で発表した6mにも及ぶ「View, the passage of time, Nakashimagawa River, 1:10pm 8 Oct 18/2019」は、江戸時代より続く大祭「長崎くんち」の取材をもとに描かれた作品で、街の賑わい、人々の躍動感があると同時に、 長い間この土地の文化として根付いてきた時間が重ねられています。一方、新作「View, a cherry tree, spring, 2018」では、たびたびモチーフとしてきたアトリエにある桜の木を描いています。いつもの通りそこに在る姿は、見ることに対しての問いを続ける津上にとって指針ともなっている存在です。
風景の在り方は、たゆたう時間のなかで人々と同じように変化し続けます。その変化を津上が見つめ、絵画に昇華させていく時、私たちはひとつの視座を自身の中にみつけることができるのかもしれません。
*2018年朝日新聞連載、朝井まかて著「グッドバイ」
そこにはなにもない
そこに在るのは些細なこと
視覚が受信し
聴覚が認識する
風が空間をふちどる
ちいさき月日
もろく美しい
対話を続けること
かろうじて像を結ぶもの
木の枝にどこからか鳥はやってきて囀りまたどこかへ
その意味や理由さえ何ひとつ手に取ることは不可能で
それでも私は見ようとする
動き続けている現象を
色や形という絵具の物質に頭の中で置き換えて
平らな紙の上に染み込ませる
眼前に在ることは
何ひとつとしてけむりのようなものなのに
2019年10月7日 津上みゆき
ANOMALY(アノマリー)
http://anomalytokyo.com
東京都品川区東品川1-33-10-4F
tel:03-6433-2988