EXHIBITION | TOKYO
今津景(Kei Imazu)
「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」
<会期> 2021年10月2日(土)- 11月7日(日)
<会場> ANOMALY
<営業時間> 12:00-18:00 日月祝休 *11月7日のみ日曜日開廊
ANOMALYでは、2021年10月2日 (土) より11月7日 (日) まで、今津景 (いまづ・けい) の個展「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」を開催いたします。
今津景は、絵画における身体性と現代の視覚表現との関係を探求し、様々なメディアから採取した画像をコンピュータ・アプリケーションを用いて再構成した後、油彩でキャンバスに落とし込むという手法で絵画を制作しています。
いずれの作品も、作家自身の日常生活の中で沸き起こった強い感情や私的なできごとがモチーフに託されていますが、テクニックとテーマの間を注意深く往来することで、客観性を帯びた絵画として描き出されます。
今回発表する新作は、予てより用いていたPhotoshop®だけでなく、3DレンダリングソフトであるDimension®の描画空間のセオリーがもつ特異さを援用し、解体した様々な画像データを、奇妙な「奥行き」または「平坦さ」をもって構成した絵画で、旧来の絵画の写実的なパースペクティブとは少し違う、現代の人工的な演算空間を想起させます。
本展「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」は、現在インドネシアを拠点とする今津景自身の知見や経験を元に、若桑みどりの『女性画家列伝』*1)、エリザベス・グロスの『カオス・領土・芸術—ドゥルーズと大地のフレーミング』*2)や倉沢愛子の『増補 女が学者になるとき:インドネシア研究奮闘記』*3)など、土着文化と異文化、女性作家の文献からも着想を得ています。
「生命進化の歴史のなかで、物質的かつ概念的な構造としての<芸術>はいつ、どのようにして始まったのか」と紹介されるグロスの著書では、作品は生成・持続への没入を示し、現在が未来を乗り越えるための収縮された条件として表されており、先住民であるにもかかわらず異邦人のものである植民地の歴史も、その土地を支える生き物や大地の記憶としてフレーミングされています。
例えば、あるアボリジニの画家の作品は、細かな点々でキャンバスを埋め尽くすオプ・アートのような抽象画といった風合いですが、それらは芸術家自体の身体や一族の歴史と結びついたような出来事 (地形、動物達、戦争、自然災害、出生、結婚、先祖、トーテムなど) による儀礼的なドリーミングと呼ばれる地図作成の試みを、絵画に写しとったものだといいます。 それは、作家自身が三年前インドネシアに移住し未知の場所で戸惑いや不安を感じながら過ごしていた頃、自身の身体が持つ記憶や経験を頼りに絵を描くということ、またその後インドネシアにもルーツを持って生まれた彼女の子どもの祖国の土地の歴史を、絵画の中のモチーフに「マッピング」していこうと考えたこととも重なります。
自身の出産育児、生物の進化と絶滅、植民地という歴史、地母神崇拝など、移り住んだ土地で経験した様々な事柄を、過去の歴史を想起させるトリガーとして画面に配置していく作業によって絵画としてフレーム化する、それは未来への思索を含めたドリーミングの作業に近いと言えます。
また今津は、コンピュータグラフィクスの三次元画像の物体表面にさまざまな効果を施し質感を高める行為も、Dimension®のもつレンダリングの効果、その後身体を通じた筆で加えるストロークなども含め、「マッピング」と呼べるのではないか、と考えています。
新作《Memories of the Land/Body》は、グロスが指摘した「マッピング」から着想し、Dimension®を用いたコンピュータ・グラフィクスの三次元画像で物体表面にさまざまな効果を施すテクスチャーマッピングやバンプマッピングなどを多用し、制作過程に取り入れた作品です。
例えば《Memories of the Land/Body》の背景には、オランダの地質学者フランツ・ウィルヘルム・ユングフンの描いた、ジャワ島の火山グヌン・スンビンの絵が参照されています。地図を作ると言う行為は、かつて欧米諸国がいかに未開の地を植民地化するか、そしていかに効率的に生産力をあげるかという目的のために行われたようですが、その意味でインドネシアにおけるオランダ東インド会社や太平洋戦争時代の日本軍のマッピングは、領土拡張の指標と捉えられます。
本文註:
*1)若桑みどり「女性画家列伝」岩波書店、1985
*2)エリザベス・グロス、檜垣立哉・小倉拓也・佐古仁志・瀧本由美子翻訳「カオス・領土・芸術—ドゥルーズと大地のフレーミング」法政大学出版局、2020
*3)倉沢愛子「増補 女が学者になるとき:インドネシア研究奮闘記」、岩波書店、2021
*4)若桑みどり「女性画家列伝」岩波書店、1985、p.173(川田順造『サバンナの博物誌』、新潮選書)より引用
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