EXHIBITION | TOKYO
キャサリン・ブラッドフォード(Katherine Bradford)
「Night Swimmers」
<会期> 2022年2月19日(土)- 3月26日(土)
<会場> TOMIO KOYAMA GALLERY
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
この度小山登美夫ギャラリーでは、79歳のアメリカのアーティスト、キャサリン・ブラッドフォードによる日本での待望の初個展「Night Swimmers」を開催いたします。
現在世界中に多くのファンをもつキャサリン・ブラッドフォード。彼女のアーティストとしてのキャリアは比較的遅く、2011年69歳でグッゲンハイム・フェローシップ、米国芸術文学アカデミー賞を受賞し、2019年78歳の時にフォートワース現代美術館で個展を開催しました。今年2022年6月〜9月にはポートランド美術館で個展「Flying Woman: The Paingins of Katherine Bradford」を開催予定です。
その他ポロック・クラズナー財団やジョアン・ミッチェル財団からの助成も受け、作品はメトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、ポートランド美術館など多くの美術館に所蔵されるなど、いまでは大きな評価を得ています。 本展は約12点の彼女の最新作を見ることができる、大変貴重な機会となります。
【本展「Night Swimmers」、および出展作について
— 甘い色、浮遊感、平和な静けさと恐れ、暗さと光、不穏さとユーモア】
本展「Night Swimmers」および出展のペインティング作品について、ブラッドフォードは次のステイトメントを記しています。
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「今回の新作は、水の中にいる人物への、私の探求が続いたものとなっています。私が夜泳ぐ人に興味を持つのは、光と影の中でかすかに変わったり、いかにその色の世界がそれぞれの状況で現れているかということです。私はいくつかのペインティングで、月の輝きを描き込んでいます。高い席の上で見守るライフガードが、私たちにとって必要なのと同じように。
また月と一緒に、私は不気味な、夜の輝く場所としての惑星を絵に加えることも好きです。絵の人物たちは、水着が一つの光を放つかのように、青みを帯びた光の中で表現されています。
夜に泳ぐことは、原始的であり、また、平和な静けさと暗闇に対する普遍的な恐れの間でのためらいをもたらします。夜の水は黒く見えがちですが、私はそこに、温かく抱きしめられるような光輝を与えてきました。夜の海はとても多くの神秘があり、私はいつもそれを描くことに挑戦しているのです。」
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ブラッドフォードは、いままでにもスイマー、夜空、海などのモチーフを繰り返し描いており、一つの作品を数ヶ月、時に1年もかけてゆっくりと変化させながら完成させます。 ピンク、青、紫、オレンジ、黄色などの甘い色合い、色の重なり。画面には浮遊感が漂い、顔の表情はほとんどないけれど、身ぶりや顔の向きなどで感情が伝わり、夜の海での楽しさ、喜び、哀しみ、孤独、恐れ、不穏さが溢れています。それらの対比が独特な雰囲気やユーモアを生み出し、まるで夢のようなシーンとなって現れ、観る人を魅了するでしょう。
シンプルな色面、背景はマーク・ロスコなどの抽象画や、フォレスト・ベス、ミルトン・エイヴリー、フィリップ・ガストンなど様々な画家からの影響を受けていますが、その上で自分なりの「具象」を、自由さや特徴あるアプローチでいままでにない形にもっていきたいと述べています。
また、彼女はなぜ泳ぐ人々を描くかという理由を次のように述べています。
「私が本当にやりたいのは、透き通った画面や切り取りなのです。みんなは、スイミングがメタファーだったり、私がむかし水泳をやっていたからとかいうけど、私は画家で、絵を作っているのです。私のモチベーションは絵の中に透き通った様を作ること、それが私にとって喜びなのです。切り取りに関しては、水と身体が相互に作用しているところを作り出すのが好きなんです。だから私がしようとしていることは、水が包みこんでいるように、人間の体を絵具で包みこむことなのです。」
また、作品のテーマに関して次のように語っています。
「今アート界では、人々が社会、政治的な主題に反応しているように感じる。、、(中略)私は普遍性に重きを置きたい。アイデンティティや、両性具有や、異なる人種がいるということがとても重要で、私は自分たちが誰で、どのようにフィットし、どのようにビジュアル的に一緒にフィットしているか、どのようにそれぞれが隣に立っているかということを探求している。どう見えるか、誰と一緒にいるかには数多くのオプションがある。コミュニティに興味がある。奇妙で、様々な人々がいる。」
(Loney Abrams “”I’m not going to fool around”: An Interview with Painter Katherine Bradford.” Artspace July 12, 2019)
【キャサリン・ブラッドフォードついて
— アーティストになる熱意、自らのアイデンティティの獲得】
現在は大きな成功と名声を得たキャサリン・ブラッドフォードですが、3年前のインタビューにおいて、いまでも毎朝目覚める度に、自分がアーティストであることに驚き、感謝を覚えると言うほど、彼女にとってアーティストとなる道は大変なものでした。
ブラッドフォードは1942年NY生まれ、現在ブルックリンを拠点に活動をしています。彼女が絵画制作を始めたのは30代の頃から。政治家の妻としての生活を変えてアーティストになりたいという渇望のもと、独学で男女の双子を育てながら抽象画などを描き始めました。
メーン州の知事選に立候補する話をしていた夫のために、家族でニューヨークから自然溢れるメーン州に移住しましたが、そこでキャサリンはヒッピー的なアーティスト達と出会い、自分もこうなりたいと強く思うようになったのです。彼女は現在の状況から逃避するべく、夫の政治家の友人達との集いにおいて、本当に窓から飛び出し、物置のアトリエに逃げ込んだという逸話があります。
離婚後ニューヨークに移住し、シングルマザーとして40歳になる頃にニューヨーク州立大学パーチェス校にて美術学修士号を取得。そのとき出会った同性のパートナーとは現在も関係を続けています。以後地道に制作活動を行いますが、60代の頃に描き始めた大きな海やボート、泳ぐ人、スーパーヒーローたちのイメージの作品が大きな評判を呼び、高い評価を受け、ようやくアート業界において広く認知されようになりました。
ポートランド市があるメーン州は、美しい海岸、深い森に恵まれ、海水浴やスキーを楽しむ人々が大勢訪れます。現在ブラッドフォードが毎夏滞在するこの地は、以前は離れたいと願ったものの、そこでの海のイメージや泳ぐ人のイメージが彼女の作品に大きな影響を与えたと言えるでしょう。
また、キャサリンの祖父、兄は建築家であり、ビジュアル的な環境に恵まれていたにも関わらず、母はキャサリンのアートへの興味を封じ込めようとしました。母からの圧迫はキャサリンを苦しめ、作品のモチーフである泳ぐ人の中に、彼女の母親が滑稽な姿で描かれていると見る人もいます。
当時の時代性においても、キャサリンがアーティストとなること、安定した政治家の妻の地位を捨てること、同性のパートナーを得ることは現代よりもより困難なことだったでしょう。自らの力でアイデンティティを獲得し、築き上げたキャサリン・ブラッドフォード。幼少期、母が急に環境を変えアーティストとしての生活を送ることに困惑していたという双子の子供達も、今では母のアートに誇りを覚え、そのことに彼女もとても喜びを感じています。
彼女の作品はその自由な精神に溢れつつも、力みのない、ユーモアと哀愁と喜びが溢れています。ぜひキャサリン・ブラッドフォードの世界観を堪能しにお越しください。
TOMIO KOYAMA GALLERY (小山登美夫ギャラリー)
http://tomiokoyamagallery.com/
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
tel:03-6434-7225