EXHIBITION | TOKYO
アストリッド・クライン(Astrid Klein)
「j’écrivais des silences des nuits(私は沈黙を、夜を書いた)」
<会期> 2024年11月22日(金)- 12月21日(土)
<会場> TARO NASU
<営業時間> 11:00-19:00 日月祝休
ポストモダニズムにおける重要な役割を果たしたとされる「The Pictures Generation」。1970年代後半よりアストリッド・クラインは、ヨーロッパにおけるこの運動の旗手として活躍してきた。映画の文法を引用したモンタージュや見立ての手法を用いて、絵画、コラージュ、写真、インスタレーションにおけるイメージとテキストの関係性を考察する彼女の作品は、その関係性の背後に潜む問題をあらわにすることをも試みる制作姿勢で、近年、新たに注目を浴びている。
「ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれたフランス映画界の新潮流や、それに呼応したフランスのアート界におけるニューウェーブ作品、それらを取り巻きそこから派生もした当時のポピュラーカルチャーの強い影響はクラインの作品世界に明確に反映されている。と同時に、経済と人間の尊厳、生と死、暴力、社会的あるいはジェンダー的役割など、極めて現代的な問題に対して、当時からすでに意識的に取り組んでいたことこそが、彼女の作品に対する近年の再評価の最大の理由であり、彼女の作品にこめられた批評精神はあらためて新鮮な考察の対象となっているのである。
本展では、彼女の代表的な二つのシリーズより作品9点を展示する。
1988年から93年にかけて制作された白を基調とする一連の絵画作品は、当時、クラインの新境地を切り開いたと評価されたシリーズで、「不可視性を可視化する」というコンセプトのもとに展開された。アグネス・マーティン、ロバート・ライマン、ピエロ・マンゾーニといったアーティストに刺激を受けたクラインは、白に白を重ねる”white on white”スタイルに、雪花石膏とジンクホワイトを使用してテクスチャーを融合させ、キャンバスに絵画的な効果を示現させた。その一方で、白い絵具の下に潜むテキストや言語の断片は、彼女が一貫して追求してきた、イメージの背後に存在する社会的課題への、静かではあるがたゆみのない意識を抽象的かつ物理的に主張している。
1980年の「Broken Heart」シリーズの大判作品は、ドイツの作家であり前衛的言語実験者でもあったアルノ・シュミット(Arno Schmidt 1914-1979)の代表作『Zettel’s Traum(断片の夢)』(1970年)のテキストからの抜粋を使用し、1960-70年代の映画やフォトノベル(コマ続きの写真にセリフや話の筋が入った小説形態)における女性の表象をテーマとしている。このフォトノベルは、窃視症的あるいは男性的視点や女性の体のフェティッシュ化から影響を受けていたと言われるが、クラインのコラージュは、テキストと画像とを視覚的なレベルでは結びつけながら、意味においてはフォトノベルが有していたようなテキストと画像の必然性を共有しない。共有しないことによってクラインは新しい文脈を想像する。そしてその文脈には新たな複数の意味が露呈されるのである。
TARO NASU(タロウナス)
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