「私が初めて大黒屋を知ったのは、週刊誌の連載「アート新時代」の取材をしていた時。本当に偶然の出会いだった。「アート」と「経営」という、一見すると水と油のような両極端の要素が、ここでは絶妙に溶け合っているらしい。大黒屋には独特な魅力がある、と気付いた。その秘密に迫り、謎を解いてみたい、と思った。
それから四季によって変化する大黒屋に一年間通い、自然環境、スタッフ、宿泊客、アート関係者、地元経済などさまざまな方面から取材を重ねて、やっと一冊の本を書き上げることができた。
この本のテーマは、一見すると「保養とアート」なのだが、大黒屋の根底には、もうひとつの大きなテーマが横たわっていた。それは、「楽しく働くとはどういうことか」。「楽しく働く」。それはすべての人に関係のある、素朴で、しかし実に深いテーマだった。「大黒屋を書く」ということは、じつはこの深淵なテーマに正面から向かいあうことでもあったのだ」(著者・山下柚実)
<目次>
プロローグ 73%がリピーターになる「奇跡の宿」/第1章 「アートスタイル経営」を掲げる温泉宿へ/第2章 現代アートのある風景/第3章 保養とアートの宿/第4章 「アートスタイル経営」の原点/第5章 「傍」を「楽」にする仕事?大黒屋に集う人々/第6章 アートが求められる時代/第7章 志から生まれた「清潔な経営」/エピローグ 「生きること」と「働くこと」
山下柚実(やましたゆみ)
作家。早稲田大学第一文学部卒業。『ショーン 横たわるエイズ・アクティビスト』で第一回小学館ノンフィクション大賞優秀賞。著書に『五感生活術』(文春新書)、『<五感>再生へ』(岩波書店)、『給食の味はなぜ懐かしいのか?』(中公新書ラクレ)他多数。環境省「感覚環境の街作り」検討委員・日本文藝家協会会員。五感生活研究所代表。http://www.yuzumi.com/