リー・キットは1978年香港生まれ。台北を拠点にアジア、アメリカ、ヨーロッパの各地で滞在制作を行い、美術館、ギャラリー、アートスペースでの発表が続いています。2013年に香港のthe West Kowloon Cultural District (M+)キュレーションによってヴェネチアビエンナーレの香港代表に選ばれ、香港館の室内と中庭を縦横に駆使した自在なインスタレーションが各方面の美術関係者に鮮烈な印象を与え、以後の活躍の場が国際的に広がりました。昨年はウォーカーアートセンター(米ミネアポリス)とS.M.A.K.(ベルギーゲント)で同時に個展を開催し、今年に入ってからはパレ・ド・トーキョー(仏パリ)での展示から始まり、カトマンズやパリでのレジデンスなど、行動に富み、連続性のある展示の数々で評価を高めています。
ペインティングやドローイング、プロジェクターやビデオ、家具・什器・日用品などを巧みに用いたリー・キットのインスタレーションからは、絵画という表現を先鋭的に拡張していこうとする意志を常に汲み取ることが出来ます。 例えば、リー自身がhand painted clothと呼ぶ一連の初期作品は、布地に描かれた絵画作品を生活の中へ持ち込むことで成立しました。カーテンやテーブルクロス、枕カバーなど日々の暮らしに関わるアイテムとして使用されたリーの絵画は、西洋的なコンテキストから逸脱した存在感をすでに示しています。 また、自国香港の市民運動への共感から始まり、現在の世界の動きについて、人間的及び政治的な問題意識をもって向き合い続ける彼の生き方こそ、作品の有り様と常に分かち難く結びついています。
日本では2015年の資生堂ギャラリーにおけるインスタレーションが記憶に強く残っている方も多いのではないでしょうか。個展のタイトルとなった"The voice behind me"は、東京へ来たリーが、この都市に住む人々が無意識の内に誰かの声に支配される欲求を持ち、ある種のヒステリー状況を自ら生み出している状況を推察したことから生まれたものでした。今回もアーティストは東京に滞在しながら制作を行います。ドラスティックな変化を続ける世界各地の情勢の中で、第一線で活躍するアーティストとして、東京で何を感じ考えながら制作するのか、非常に興味深いものがあります。
「Not untitled」(無題ではない)というリー・キット一流の皮肉めいたロジックをもって名付けられた本展覧会では、ギャラリー空間がいくつもの壁によって寸断され、迷路化されます。断片化された空間はリーによるプロジェクター絵画によって網をかけられ、縫合され、さらにはあなたの影そのものすら作品の一部として取り込まれます。ギャラリー空間そのものがリー・キットのキャンバスと化す、眩暈を起こすような空間になることでしょう。 また今展を機に、リーと旧知の編集者アンドリュー・マークル氏による半年がかりのインタビュープロジェクトも進行中ですのでご期待ください。
リー・キットの東京での四度目の個展、シュウゴアーツにおける三度目の個展となる「Not untitled」をご高覧頂ければ幸いです。
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