パウロ・モンテイロは、ペインティング、ドローイング、彫刻作品をミニマル且つ表現豊かに制作する、ブラジル出身のアーティストです。2008年にはサンパウロ州立美術館にて大回顧展が開催され、2014年ニューヨーク近代美術館(MoMA)にモンテイロ作品が20点所蔵されるなど、モンテイロはブラジル現代美術界を代表する作家の一人と言えます。本展はMISAKO & ROSENとの共催による、待望のモンテイロ日本初個展となります。
【作品について】
モンテイロの作品は、ペインティング、ドローイング、そして彫刻という、異なる形態を調和させながら制作されているのが大きな特徴であり、それらはお互い補完しあうかのように成立しています。一般的には、例えば鮮やかな色彩の油彩と、床置きのブロンズの固まりの彫刻には違いが顕著に見られるのですが、この違いの感覚は、私たちが作品に近づいて見れば見るほど解消されていくでしょう。
<彫刻ー重力、動き、変化>
彼の彫刻作品では、「重力」が重要な構成要素となっています。素材を少しずらしたり、カットして動きを出す事で、ブロンズや鉛などの硬い素材にもかかわらず、あたかも作品が粘度を伴ってうねり、ふくれあがり、波打つように見えます。それらはむしろ脆さや儚さまで感じさせるかもしれません。
たとえばアルミニウムを細くロープのように造形されている作品は、浮遊性をともないながら軽やかに壁に配置されており、あたかもアルミニウム自身の独自の身体を獲得しながらクラシックバレーを踊っているようにも見えます。反対に、フェルトなどの軽い壊れやすい素材を使っていても、まるで硬い素材かのように重力を働かせ、歪ませています。
それはまるで作品と素材の重さとのささやかな、繊細な会話が聴こえるかのようであり、決して終わる事のない変化のプロセスを表現しているようです。モンテイロの彫刻作品は、そんな動きの偶然性やアクシデントの要素により、ドラマティックで楽しげにさえ見えるのです。
また、近年のモンテイロは、ロープや木の切り株、紙や布の切れ端、テーブや段ボール、釘、モーター、アルミニウム等、工業用品や消費物をも立体作品の素材にしています。モンテイロの彫刻作品において、素材は単なる素材としてではなく作品の主題として存在しており、作品の中で表面を造り出しているのではなく、あくまで物質性を明らかし表出しているといえます。
©Paulo Monteiro
<ペインティングー物質性>
モンテイロの多くのペインティング作品は、表面に均質性をもたらす厚みのあるペイントの層により、単色で描かれています。しかし、モンテイロは同時に、ブラシでペイントの表面を薄めてもいます。彼は、厚みのある層の少量のペイントを、別の箇所に移動させているのです。また、ペインティングの背景となる色面から、線が浮かび上がるようにに描かれています。
彼は、まるでキャンバスの中の対称性や規則性のあらゆる可能性を壊そうとしながら、このわずかな移動や作品表面の凹凸により、キャンバスの上のペイントを、あたかも物質として存在させています。ペイントも、もはや彼の作品の中では「色」ではなく、「物質」であるのです。
<ドローイングー即時性>
モンテイロは、ドローイング制作で長年繰り返し使っている垂直線の構成において、「線」の可能性を執念的に追求しています。
これは同じ方法が繰り返されることで、構成の多様性が抑制されるような制作プロセスですが、結果として即興のアクションの繰り返しにより、作品ごとの違いが生み出されています。
これらのドローイングに関する即時性は、モンテイロの作品における重要な部分であり、おそらく、だからこそ彼の描く線は決して完全な直線ではなく、間違えて描いてしまったり、ためらいの痕が残っていることが、かえって感情が揺れ動く様や色のコンビネーションによる強烈さを現しています。それは、最終的な表現においては、作家本人にとってもコントロール不能な部分があることを示しているといえるでしょう。
<モンテイロ作品の世界観ー空間性、運動性>
ペインティングやドローイング、彫刻を含む作品群の中で、モンテイロは共通して、具象と抽象がそれぞれに巧妙に入り組むように表現されるような、彼独得の言語を築いていると言えます。モンテイロは、自分の作品を個別のものとして表現しているのではなく、個々の作品が運動性や空間的なスケール感を帯びることで、それぞれの間に、力、強さ、共振等が発生する密接な関係性を生み出し、作品全体でモンテイロの世界観を表現しているのです。
モンテイロは次のように語ります。
「私が制作する鉛の作品は、壁面の作品との関連性をもつものである。私は粘土のかたまりを盛り土、あるいは(フィリップ)ガストンのペインティング「Back View」のように形作り、できるかぎり垂直な状態に保たせる。そしてそれらが崩れ落ちそうになるとき、私はそうならないために、その形状を押しつぶす。しかしそれだけでは十分でなく、何らかの形がその行為の結果として現れる必要がある。」(サンパウロ州立美術館、パウロ・モンテイロ個展カタログより)
また、近年モンテイロはダンスに興味があり、クラシックバレーを習練しています。彼の作品の中で、素材の動きや運動性は重要なポイントですが、初期の頃の彼の作品の、新表現主義やトランスアヴァンギャルドの考えによるところに加え、それらはダンスの影響が大きいのではと言われています。
モンテイロは「動き」のアーティストなのです。
私達は本展それぞれの展示空間において、彼の世界観全体を体験する事でのみ理解できる、独得のリズムやエネルギーを感じる事ができるでしょう。
【展覧会について】
MISAKO&ROSENの展示では彫刻約29点、ペインティング約13点、ドローイング約27点、小山登美夫ギャラリーの展示では、彫刻約34点、ペインティング約32点と、新作を含む大小さまざまな作品で、モンテイロ日本初個展にふさわしい充実した構成となっております。
モンテイロは、本展のタイトルに関して次のように述べています。
「二つのものは、その間の距離でかなり変わる。まず二つの色のものを並べて、その後違う色で距離を変えてみればよくわかる。私はまた三次元的なスペースにおける距離にも関心がある。それは別のものの存在でかなり変わる。三次元的なスペースには体積がある。だからその距離には外側と内側がある。最初私はその体積はとても大きくて私たちは内側にいると思っていた。しかしそれも変わることに気づいた。その部屋に足を踏み入れたら距離の体積は変わる。見ることはできるが、内側にいるということは感じない。たくさんのものの中で見失ったような感覚をもっていたが、私はおそらく距離の内側ではなく、むしろ外側にいるのだろう。今回の作品はこの距離の外側に関するものになる。」
この貴重な機会にぜひご高覧下さい。
【作家プロフィール】
1961年ブラジル、サンパウロ生まれ。サンパウロ美術大学のヴィジュアルアート科を卒業。現在もサンパウロにて制作活動をしています。1977年にアーティストとしての活動を初め、当初はロバート・クラム等から影響を受けたコミックを描き、雑誌の表紙などに掲載されていました。1981年からフィリップ・ガストンの後期作品に影響を受けて絵画を制作し始め、1983年には、ブラジル絵画の復興を目指したアーティストグループ「Casa7」の創設メンバーに。1985年サンパウロビエンナーレに参加し、彼らの新表現主義は、ブラジルのアートシーンの中心となっていきます。1986年、パイプや木などを使った立体彫刻の制作を開始。1994年に鉛の彫刻で第12回サンパウロビエンナーレに出展し、1999年には「Bolsa Vitae de Artes Visuais」賞を受賞しています。
2000年には、ペインティング制作を再開。2008年には、サンパウロ州立美術館でモンテイロの大回顧展が開催され、2014年ニューヨーク近代美術館(MoMA)にモンテイロ作品を20点所蔵されました。
国内外多くの展覧会に出展し、作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)、サンパウロ近代美術館、サンパウロ州立美術館、サンパウロ大学現代美術館など、多数の美術館にコレクションされています。
東京都港区六本木6-5-24 complex665ビル2F
TEL: 03-6434-7225
http://www.tomiokoyamagallery.com