森は、樹木のみならず様々な生物、水、空気、音、匂い、そして気配などが絡み合う厚みを持った空間だ。山と谷の織り成す地球の襞に根付き呼吸している。森の中そして山と谷の間で交わされる視線は、斜線の織物空間を形成し、織物の密度の濃淡は多中心構造を生み出す。多中心に現れる垂直水平もこの斜線構造によって支えられている。私はこの構造を「森」として彫刻の構造に組み入れようとしてきた。森の視線は、次第に触覚性を母体として情動を呼び覚まし、概念的でありながら情動的あるという往復運動を引き起こした。そこには身体が介在している。空気や水や音のリズムなどが身体を通して素材の表面を流動し、次第に彫刻は形作られていく。
戸谷成雄 2016年11月
メソポタミアの時代に始まるレリーフ的彫刻から、ポンペイ遺跡で発見された空洞として存在していたヒトや動物たちのトルソのような雌型(めがた)、あるいはミケランジェロのダビデ像から、明治近代を境に江戸的彫りものとロダン的西洋近代彫刻との葛藤を体現した高村光雲(1852 - 1934)・光太郎(1883 - 1956)親子、あるいはロダン(1840 - 1917)に対するある種のアンチテーゼとして見得るメダルド・ロッソ(1858 - 1928)の仕事、そしてアルテポーヴェラ、もの派...
戸谷成雄(1947生)の仕事は、このような古今東西にわたる分析研究を経て到達した独創的な彫刻史観をもって、21世紀の今日に連なる構築的な彫刻表現として位置付けることができます。
彫刻という芸術表現を感受するには、絵の鑑賞では許されるかもしれない文学的アプローチは必ずしも有効ではないという手強さがあります。かつて吉本隆明(1924 - 2012)が著書「高村光太郎」において、その最終章に「彫刻のわからなさ」という題を付したように、絵を観るときとは異なる感覚のチャンネルを開放する必要があります。
戸谷成雄には極東の日本に結実した真に独創的な彫刻芸術の成果があることは強調されてされ過ぎることはありません。今展においては1987年に第一作を発表して以来、ライフワークとして制作を続けてきた森シリーズの十作目をシュウゴアーツの新しい空間にて発表いたします。また第二室にて併せて新作小品及び過去ブロンズ作品を展示する予定です。
〒106-0032 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
TEL: 03-6447-2234
http://shugoarts.com/