タカ・イシイギャラリーは、9月16日(金)から10月15日(土)まで、伊藤存の個展「ふしぎなおどり」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでは5年ぶり3度目となる本展では新作の刺繍作品など約10点を展示いたします。
「わたしがふらっと立ち上がります。ーホラ、立ち上がったでしょう。これはわたしが立とうと思ったのです。そんなふうな気分で立とうとおもったのです。これは一つの情緒です。
立とうと思うと、四百いくつかの筋肉が、同時に統一的に動いて、じっさい立ち上がるという動作を実現します。」
「どうしてこのようなことが出来るのかは全く分かりませんが、分からなくても確かにできるのです。
このほうは日常絶えず経験していることで疑う余地はありません。」
(岡 潔 「情緒と創造」講談社31頁 16行目~32頁3行目、32頁8行目~9行目より)
生まれて初めて立ち上がったときの人は自分が立ち上がったことにおどろいている。
そういう顔の表情をしている。
そして、このおどろきの動作を繰り返し確認し、情緒をたしかな形にしているのだろう。
それから随分時がすぎて、ふいに人が立ち上がったとき、少しはなれたところに寝転んでいた野良猫がおどろいて立ち上がり、こちらを見る。
そのとき人と野良猫はお互いの違う世界を見つめあっている。そのときの野良猫のみているもの。海がこっちにきたりあっちにいったりする。こっちにくるときに濡れないように立ち上がり後ろにさがる。
リズムは波とあっている。このときの人がみているもの。
(伊藤 存)
刺繍、鉛筆画、ドローイング・アニメーション、映像や立体作品など、これまで多岐にわたる手法で作品を発表してきた伊藤は、本展のプレスリリースのために数学者岡潔の言葉を引用しています。人間の知覚の外側の世界と人の内なる世界との関係に関心を持つ伊藤は、岡が提唱した、育くまれることで形作られていく人のこころの働き「情緒」についての思考に、その作品制作を通して興味を持ち続けています。
近年では、私達の認識の外部に存在する生物、事物、現象に目をむけ、それらと自己との関係を探るプロジェクト「生き物調査」に取り組み、巨大な岩を連想させる一部に刺繍を用いた立体作品や、一筆描きによるドローイングと木の枝とで構成される作品など、独自の表現方法を構築してきました。
本展にて発表される、有機的なかたちに描かれた刺繍作品や粘土絵など、伊藤作品のさらなる展開をぜひこの機会にご高覧ください。なお展覧会カタログの刊行を予定しています。
伊藤存は1971年大阪生まれ。1996年京都市立芸術大学美術学部卒業。京都を拠点に活動。2003年、ワタリウム美術館(東京)にて個展「きんじょのはて」を開催。「世界制作の方法」国立国際美術館(大阪、2011年)、「プライマリー・フィールドⅡ: 絵画の現在 ─ 七つの〈場〉との対話」神奈川県立近代美術館 葉山(2010年)、「Louisa Bufardeci & Zon Ito」シドニー現代美術館(2009年)、「ライフがフォームになるとき:未来への対話 / ブラジル、日本」サンパウロ近代美術館(2008年)など国内外の展覧会に参加している。作品は、ウォーカーアートセンター(ミネアポリス)、ワタリウム美術館(東京)、東京都現代美術館、高松市美術館、国立国際美術館(大阪)などに収蔵されている。
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