坂本夏子 (1983 年熊本県生まれ ) は、2012 年愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了。 「絵画の庭ーゼロ年代日本の地平から」 (2010 年、国立国際美術館、大阪)、 「魔術/美術 --幻視の技術と内なる異界」 (2012 年、愛知県美術館、愛知 )、 「であ、しゅとぅるむ」 (2013年、名古屋市民ギャラリー矢田、愛知) 、「はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション」 (2016 年、 国立新美術館、東京 ) をはじめとするグループ展に参加するほか、 3 ヶ月の滞在制作を経て行われた個展 「ARKO 2013 坂本夏子」 (2013 年、大原美術館、岡山) 、 梅津庸一との二人展 「正しい絵画のつくり方」 (2013 年、ARATANIURANO) が開催されるなど、益々今後の活躍が期待される作家です。 近年ではアーティスト・コミュニティ 「パープルーム」にも参加し、 国内各地で行われるグループ展に出品しています。
坂本の一貫して唱え続けてきた命題に、「絵画でしか表せない世界」 を描きたいというものが
あります。 初期の代表作である 「Tiles」 (2006) や 「Tiles, Shower」(2006、豊田市美術館
蔵 ) では、タイルを一枚ずつ完成させてから隣り合うタイルを描き進めるという手法を用いて、
不思議な奥行きと歪みのある空間を創り出しました。 その後、 「NAGISA」 (2012) ではモチー
フである女性と風景をスライドさせるように反復することで、よりフラットな構造を持つ画面構
成を試みました。 その後は目を閉じて物を触った感覚、口腔内を舌で触った感覚をテーマに描かれたという「Still LifeⅠ」 (2012)、大きな室内に光が差し込む部屋をモチーフにした 「訪問者」
(2013) といったような、 それまでの坂本の絵画を構築する方法をがらりと変化させた作品を経
て、2014 年に開催した個展 「坂本夏子の世界展」 (2014 年、ARATANIURANO、東京) で発表した四季をモチーフとした大作シリーズでは、一点一点異なる構図・手法で取り組み、絵画の新しい可能性を押し広げ、 「絵画でしか表せない世界」 を表出させました。
絵とは何か、という問いの一歩先を坂本の筆は進み続けます。 今回はその答えの一つとして
光の視覚情報を電気による神経信号へ変換する「網膜」を手がかりに、 特異な絵画世界へと鑑賞者を導きます。
本展では、およそ15点の油彩作品とドローイングとともに、ステンドグラスによる作品やオブ
ジェ等も展示いたします。 また会期中には、美学者の秋庭史典さんと 「画家の網膜」 をテーマにした対談、伊藤亜沙さんとのイベントでは、 伊藤さんのテキストをモチーフに坂本が絵を描く実
験的なパフォーマンスを行います。
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「画家の網膜」 へのメモ
坂本 夏子
わたしにとって絵は、すでにあるイメージを表出するためのものではなく、 未だ無い空間
にふれるための方法です。 なのでわたしの制作は非常に個人的なものだと言えるかもしれま
せん。
絵のテーマやモチーフは日頃ノートに描くドローイングやメモや落書きから生まれること
がありますが、その多くは私の思念や外界から受けとったビジョンや出来事などからできて
います。 それを油絵の具に置きかえるための無限のルートについて思索し、キャンバスに向
かって描くことで絵の世界と私はより強く結びつきます。
描きながら常に変化する画面はとても繊細で無限の不思議さを内包しています。 手の順序
がたったひとつ入れ替わる、 一筆がおく絵の具の面積や質感、引きずり方がほんの少し違う
だけで、 次の手の誘導、可能性ががらりと変化します。 すべての一手が分岐点です。 知らな
い場所にでるための選択になるか予測しながらくり返します。
描くことは絵の内側に住むことですが、そこでは二次元でも三次元でもない場所に身体が
適応させられていくような感覚があります。 その、 絵にしか起こりえない空間は網膜の経験
を不思議に歪めていくような気がします。
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