シンガポールを代表する作家ザイ・クーニンは20年以上にわたり絵画、彫刻、映像、音楽、パフォーマンスなど領域を超え活動しています。90年代に儀式や身体を主題に制作を行い、シアターでの活動やパフォーマンスで注目を集めたザイは、2000年頃よりマレーの歴史や文化、とりわけリアウ諸島の原住民オラン・ラウト(海のジプシー)に対する考察を深めていきます。
周りが急速に近代化していくなか、海の上で暮らし続けるオラン・ラウト達の同化への抵抗や絶望的な孤独、否応無しにふりかざされる権力に対する思いや人間の欲求、切なる思いをザイ自身が理解しようとする過程で表現された作品群は内外で高い評価を受け、「誰が世界を翻訳するのか」(金沢21世紀美術館、2015年)、「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術」(横浜美術館、2013年)でも紹介されました。また日本では大友良英や斎藤徹とのセッションなどを通じて音楽家としても知られています。
日本初個展となる本展は、黒潮を意味する「オンバ・ヒタム」と題され、多様な黒を描いた新作ドローイングを中心に構成されます。水をたっぷりと含んだインクで描かれる《Ruang yang tersembunyi - Hidden space in solitary》(2016年)は、大小の黒いフォルムが重なりあい、繊細な濃淡の動きを内包しながら一つのまとまりを成します。
ともに大小の島々から成り、様々な形で海との結びつきのもとに人々が暮らすリアウと日本。その間を流れ、多くの文化を運び伝えてきた黒潮への作家の思いが多層的な表現を生み出します。ぜひこの機会に、深い思索を詩的に表現するザイ・クーニンの作品の数々をご高覧ください。
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