色とりどりの服が掛かったクローゼット、高いヒールの靴が並ぶシューズラック、鮮やかな花々。佐藤翠の絵画は、女の子の憧れが詰まった宝石箱のようです。画面に吸い込まれるように眺めていると、大胆で素早いタッチがモチーフの輪郭を溶かし、具象性と抽象性が共存する画面で、鮮やかな色彩と卓抜な構成が強い魅力を放っていることに気づきます。美術史家・美術評論家の高階秀爾氏も指摘する通り、佐藤の作品は、絵画の魅力、喜びに溢れ、「ほのかな、かすかな官能性の香りがいわば隠し味のように重なって、比類ない豊麗な世界」(高階秀爾『ニッポン・アートの躍動』(講談社))を生み出しています。
本展覧会について作家は次のように語ります。「 花や植物が心から素晴らしいと思えるようになった。外国で出会ったライラックの花の小さなその一つ一つ。可愛らしい色合いのすみれ。鳥肌が立つほど美しいバラ。コサージュのように輝き、たわわに咲く椿。ふわふわをもつ不思議な植物。そして生命力溢れ複雑に広がる緑。その素晴らしさを知れば知るほど、これまで私が惹かれてきたものは、実は自然がルーツにあると納得した。装飾の神様は自然のなかに溢れていて、一番美しい色や形はそこにあると身をもって体感した。」制作への原動力が「自然」にあることを改めて実感し、新しく制作された新作絵画約10点を展示します。小山登美夫ギャラリーでは3度目の個展となる本展、佐藤翠の神秘的で洗練された世界観をぜひご高覧下さい。
佐藤翠は1984年愛知県生まれ。現在も名古屋市を拠点に制作しています。作品は、芥川賞受賞作家・中村文則の小説『去年の冬、きみと別れ』(2013年、幻冬舎)の装画や、松永大司の映画『トイレのピエタ』(15年)の劇中に使われたり、『花椿』(資生堂)では原田マハの短編小説と挿画でコラボレーションをするなど、その活躍の場を広げています。「VOCA展2013現代美術の展望―新しい平面の作家たち」(13年、上野の森美術館、東京)では大原美術館賞を受賞、作品は同美術館に収蔵されました。また,昨年,資生堂ギャラリーでの展覧会「絵画を抱きしめて Enbracing for Painting」では鏡を用いた作品も出展し好評を博しました。
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