山本現代では2016年3月5日(土)から26日(土)まで、 宇治野宗輝 個展「Rotate'n'Roll Over」を開催いたしますのでご案内申し上げます。
ジューサーやドリルなどの家電を自由自在に組み合わせたサウンド・スカルプチャー『The Rotators (ザ・ローテーターズ)』シリーズや、タンスや自動車を用いた大型作品を制作することで知られる宇治野は、戦後に大量消費社会を迎えた日本と近代化、また自身が影響を受けて育ったアメリカやイギリスのロックンロール文化への純粋な憧れをアイロニカルに表現する作品を発表しながら、同時にパフォーマンスやライブなど多彩な活動を世界各地で精力的に行ってきました。
山本現代では3年ぶりとなる今回の個展では、90年代から始まった宇治野の活動全てを総括するような新作『PLYWOODY OZONE-SO(プライウッディ御存荘)』を中心に、外来語の概念をカタカナに置き換えて受け入れ発展してきた "文化の接ぎ木"としての日本の現状をグラフィカルに表現した『日本シリーズ』からの新作『ファック』と『ヘル』を、床の間に見立てた会場入り口に展示いたします。また『日本シリーズ』誕生のきっかけとなった第1作目の『トゥエンティワン・センチュリー』を始め、その他の初期作品も交え、こんにちまでの宇治野の作品群を回顧展さながらに展示いたします。
その他近年のパフォーマンスから2014年にアサヒアートスクエアで行ったパフォーマンス「INERTIA(イナーシャ)」と、本年1月に行ったパフォーマンスの記録映像も上映し、宇治野の世界観の拡がりをご覧いただけるまたとない機会となります。
宇治野の現在までの作品は、その成り立ちから概ね5つのシリーズに分けることができます:
1)きらびやかに装飾された小型バイクのような形状で、身体に(男根を彷彿とさせるように)装着し演奏することのできるサウンド・スカルプチャー『Love Arm(ラブ・アーム)』
2)このサウンド・スカルプチャーを発展させ、電化製品や自動車、家具など世界中の人々が日常生活で身近に使っている大量生産品を再構成して制作する『The Rotaters(ザ・ローテーターズ)』シリーズ
3)機械によって制御された日用品が、まるで能のような動き(ダンス)をする『Machine Theater(マシーン・シアター)』
4)外来語の新しい概念をカタカナという音に変容させ、受け入れてきたことをコンセプトに据えた『日本シリーズ』
5)日本の木造建築や美術品の梱包に使用されるベニヤ板(PLYWOOD)に隠喩と皮肉を込めた作品群『PLYWOOD CITY(プライウッド・シティ)』シリーズの5つです。
このいずれにも、高度経済成長の中で青春期を迎え影響を受けたロック・ミュージックやアメリカ文化への素直な憧れと、大正生まれの宇治野自身の両親の生活様式や美意識とのギャップを消化しようと試みる宇治野の考察が見て取れますが、それは作家個人の問題に留まらず、今日の世界で享受されているグローバリゼーションの恩恵と、高度経済成長や近代化など、20世紀以降の人類が抱えている問題が提示されています。
新作『PLYWOODY OZONE-SO(プライウッディ御存荘)』は、宇治野が2004年に発表した『御存荘』を発展させた『PLYWOOD CITY』シリーズの新作です。初期型の『御存荘』は、障子の桟や縁側、竹など日本の伝統的な木造家屋を解体した不用品を再構築し、戦車の形状へ仕立てた大型の作品でした。20世紀を発展させた重工業=鉄、その塊であり最も男性的なイメージを持つ"戦車"を、女性をイメージさせる"家"で作る、というような "近代と日本"、 "男性性と女性性"をテーマにした作品でしたが、奇しくも2003年にイラク戦争が勃発したために、何度かヨーロッパで展示された際には、この世界的な文脈の中で "日本人"が制作した "戦車"として様々に解釈されていきました。
今展で発表する『PLYWOODY OZONE-SO』は、竹の砲塔や縁側の素材はそのままに、美術梱包用のベニヤでできたクレートを屋根に持ち、サウンド・システムである『The Rotaters(ザ・ローテーターズ)』シリーズがコックピット部分に搭載されることで、ビートを奏でます。「内部は極小の茶室のような趣だが、家電製品とエレキギターを組み合わせた、ロックンロールの技術を引用したサウンド・システム用のアンプ/スピーカーが積み上がり、ヴォリュームを上げると改造車両のようにかなりうるさい。」と宇治野が言うように、未だ終わらぬ世界戦争と軋み続ける世界の中で、もの言わぬ戦車であった『御存荘』が「かなりうるさい」主張を始めます。その『PLYWOODY OZONE-SO』を見つめるポップで眩しい『トゥエンティ・ワンセンチュリー』の文字が、2016年の現在どのように映るのか、ぜひ会場にて皆様にご覧いただきたく存じます。
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