ダレン・アーモンドはこれまでも工業的に製造したフリップ式時計や、月光による長時間露光を用いた写真シリーズなどを通じて、時間の進行に変化を与える作品を発表してきました。写真作品は、北極圏、シベリア、比叡山の秘境などの多くの人々が行き着かない遠隔地に赴き、撮影されています。世界の異なる風土や、ときに過酷な自然環境と人間生活の現実とに向き合ったこれらの作品は、その土地に生きる人々の個人的・集団的記憶に分け入り、刻印された時間とその持続性のなかで静かな瞑想を引き起こすかのようです。
「陽の光のかげで」("Within The Shadow of The Sun") と題された本展では、遠隔地への憧憬と、星々の進行とともに切り取られ感じられる時間とが、見上げる天体のなかに見出されています。中心となるのは、壁一面に拡大投影される太陽の映像です。ロサンゼルスのグリフィス天文台の太陽観測望遠鏡から見える太陽を、作家自身がiPhoneで撮影した映像作品《Hand-held Sun》(2015年)は、展覧会場の唯一の光源として壁一面に投射され、あたかも太陽が月を照らすように取り囲む作品を照らし出します。16枚の鏡面パネルから構成される"In Reflection"(2015年-)は、上下二分割された数字の断片が解読できないかたちで配されており、壊れたフリップ式時計のように、時を告げることがないモノクロームの抽象パターンを構成しています。アルミニウムパネルにアクリル絵具で描いた新作シリーズ"Timescapes"(2015年)は、ハッフル宇宙望遠鏡がとらえた星雲や恒星系のイメージから作図されており、幾重にも重なり合う色のレイヤーが、科学的思考と絵画的な技法の相互作用を生み出しています。
古来より航海術は、昼の太陽と夜の星の位置を頼りに行われてきました。三つの作品シリーズが互いに呼応する本展では、太陽が沈むころ会場内のもうひとつの太陽が輝きを増し、規則性を逃れたランダムな数字の連なりが、時間の経過を刻む正確さよりその曖昧さを強調しています。旅、移動、空間 -- 時間、幻想、記憶など、これまでの制作活動をかたどった概念が、太陽の光と影とによって再び強く関連付けられ、アーモンド作品に新たな視点を投じる機会となるのではないでしょうか。
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