Broomについて 藤本由紀夫
「晩秋の寒い朝、前夜の強風によって舗道の並木の枯れ葉がほとんど落ちて、路上に絨毯のごとく敷き詰められていた。コンクリートの上に積もった枯れ葉を踏むと、カサカサととても良い音がした。嬉しくなって思いきり蹴飛ばしながら歩くと、音楽を演奏している時と同じ気分になってきた。
この体験がきっかけで、展示会場に枯れ葉を敷き詰めるアイデアが浮かんだ。普段、騒音の中で聞き慣れている枯れ葉の音も、静かな室内で体験すると、異様なほどクリアに聞こえ、緊張する。ドアを開けたときにはシーンとしているが、一歩室内に足を踏み入れると、ザクッザクッという音が部屋中に響きわたる。三人ほど歩き回ると話しもできないほどの音になる。
敷き詰められた枯れ葉は「レコード盤」である。そしてそのレコードから音を拾いだす「レコード針」の役目は、そこを訪れた人の両足の動きによって果たされる。
broomとは箒の意味である。帚で地面や床を掃くと、サッサッと音をたてる。地面や床はレコード盤であり、帚はレコード針なのだ。地球は大きなレコードで、我々は毎日、レコード針である両足で音を引き出しているのである。
Broomは1989年大阪の児玉画廊での個展において初めて展示された。枯れ葉を敷き詰める展示室のドアに「B室(room B)」と書かれていたことから、このインスタレーションのタイトルは決められた。その後、様々な場所で敷き詰める素材を変えながらこのサウンドインスタレーションを行ってきた。
石、タイル、紙等、素材の違いや形状の違いにより音が変化する。その時々で新しいレコードが生まれていた。
2011年オーストラリアのパースでBroomのインスタレーションを行う事になって、パースは木炭の生産地であるという事を聞き、木炭を展示室に敷き詰める事にした。しかし、展示室の床全面に敷き詰める程の大量の木炭は用意できないと言うことになり、レコード盤のように円形に敷き詰める事にした。そして直径8m程の巨大なレコード盤が出現した。
その翌年、ドイツのドルトモントでの展覧会では、ドルトモントが嘗て石炭を産出していたことから、石炭をレコード状に敷き詰めることにした。しかし、石炭の上を歩く事により粉塵が舞い上がる恐れがあるため展示が難しいという事態になった。その問題に対して展示の準備を行ってくれたデュッセルドルフ工科大学の大学院生達は素晴らしい解決策を見つけ出してくれた。それは石炭をすべて洗浄するというアイデアであった。洗われた石炭は光り輝いてとてもきれいな作品となった。ダイヤモンドと石炭は同じ元素であることを実感した。
この石炭のレコードのインスタレーションを東京で行う事ができることになった。また新たなレコードが生まれる。」
シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーは2月6日(土)より、神戸を拠点に音と言葉を基点とした未踏の芸術世界を開拓し続けている藤本由紀夫の個展「Broom (Coal) / Tokyo」を開催します。
1970年代に電子音楽を学んだ藤本由紀夫は、ステージやスタジオといった音楽の場を早々に離れ、マルセル・デュシャンとジョン・ケージの打ち建てた現代芸術の文法に則って、音あるいは言葉に対して価値をつけなおす営みを続けてきました。
藤本芸術の別の側面としてあげられる特徴は作品がしばしばインタラクティヴであることです。今展のメイン作品「Broom (Coal)」は、ウィークエンドギャラリーの床一杯に敷いた石炭によってかたどられた「レコード盤」の上を、展覧会に訪れた人々がレコード針よろしく踏み歩くことによって生ずる音を自ら聴くという、参加者自らが関わることによって初めて作品が成立するものです。すでにオーストラリアのバースとドイツのドルトムントにて実現しているインスタレーションの日本初の出現となります。
また今展初日にはビデオトークショーを予定しております。具体作家村上三郎の紙破りについて、これに「音」芸術として正当な評価を与えることで、村上三郎本人にようやく溜飲を下げしめた藤本由紀夫が自ら編集したビデオを披露します。藤本由紀夫の芸術分析力の圧倒的な面白さを垣間見る機会となります。
154-0001
東京都世田谷区池尻2-7-12, B1F
tel: 03-6453-8296
fax: 03-6453-8290