時代の波やスピードから一線を画し、現実とイメージの間で、丹念に絵づくりする安藤正子。本展覧会は、初の作品集が青幻舎から出版されることを記念し、掲載作品中から、新作ペインティングの「うさぎ」「パイン」「APE」三部作、ドローイングの「APE」、及び、今回の展示に合わせて作家自ら額を制作したドローイング「Light」を展示いたします。
新作「うさぎ」「パイン」「APE」は2011年の東日本大震災とそれに伴う原発事故の中、中部地方にて幼い子どもと暮らす作家の日常において、見聞きするニュースや混乱した現地の様子を受け止める過程で生まれました。人々が避難した後の無人の商店街を軽快に走り回るダチョウ、一本だけ残された松の木、すべてが流された海辺に廃材を集めて建てられた、アイヌ語で「火」を意味するという「アペ」という名のカフェ。新聞やニュースの映像などの情報と、子と共に段ボールで作ったロボットの頭、雪降る美しい冬の一日や父親の手描きの地図、草はらをかけてくる子と産まれなかった子、などなど数多の日常の出来事が蓄積し、それらが女性や子ども、彼らを取り囲む植物や身の回りの日用品などの形あるモチーフになって現れます。透明色、不透明色といった油絵具の特性を生かして絵と対話しながら作り上げられたその画面は、絵具の物質感や思考の過程、手作業の痕跡を丹念に消されることによって、鏡の中のような虚構性と、卓越した描写力による現実性、また、研ぎ澄まされた構図や表情による普遍性とが不思議に共存し、絵画の醍醐味を教えてくれます。
安藤正子は1976年、愛知県生まれ。2001年に愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻を修了しました。大学では、多くのアーティストに影響をあたえた櫃田伸也氏のもと制作を行い、現在は緑豊かな愛知県瀬戸市を拠点に制作を続けています。非常に時間を必要とする手法ゆえ作品は年数点というペースで制作され、今回の個展は2004年の小山登美夫ギャラリーでの初個展、「ハラ ドキュメンツ9 安藤正子 -- おへその庭」(原美術館、12年)に続く三度目の個展となります。希有な機会であるこの展覧会を是非御高覧ください。
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