タカ・イシイギャラリーは、ニューヨークを拠点に活動するショーン・ランダースの6度目となる個展を開催いたします。
コンセプチュアル・アーティストであるランダースの根底には、作家にとって残るものが唯一作品であるとき、作家であることはどのような意味をもつのか、そしてどのように将来にわたって意味のある存在であり続けることができるのか、という問題意識があります。ランダースはこの問いを追求するために、さまざまな伝統的/非伝統的な手法とメディアを用いて制作を続けてきました。絵画の永続性と、絵画が作家の分身となる方法、これこそが8点の新作におけるランダースの関心です。
これらの新作において、ランダースは「ヴァーシュ(雌牛)の時代」(1947-48年)のルネ・マグリットの絵画にヒントを得ました。この時代のマグリットは、それまでの安定したシュルレアリスティックな作風から離れ、より自由で風刺的な、スケッチのように粗い筆致の作風に変貌した時期でした。ランダースは、自身の芸術的実践における自由の必要性の象徴として、ヴァーシュの時代のマグリットが多用したタータンチェックを流用(アプロプリエイト)しました。芸術的な自由を介して初めて、作家はオリジナルの作品を制作することが可能であり、このようにして作品が永続性を獲得するとランダースは信じています。
7点の作品には、北米に生息する哺乳動物の姿が描かれ、これらの動物は細心の注意を払って描かれたスコットランドのタータンチェック柄の毛皮に覆われています。これらのタータン柄は、マグリット作品からの直接的な引用であり、ランダース自身の芸術的自由への追求を表現しています。この図柄はもともと、スコットランドの各氏族を象徴するものですが、ここではランダースの一作品として判別する手段であるのみならず、絵画の中の動物達を異形の姿にすることで、時間を超える旅の中で彼らを無関心から守ろうとするランダースの意図を表現しています。またランダースは、現世の人々だけでなく後世の人々の心をも惹きつけるように、動物達を可愛くてチャーミングな姿に描きました。
本展では、上記の作品とともに、ポプラの森の夜の雪景色が描かれた1点の絵画を展示いたします。この一見牧歌的な場面の木々の樹皮には、言葉とイメージが刻まれています。ランダースにとって、テキストとイメージの混在は過去を振り返る行為です。1990年以来、これらの組み合わせはランダースの作品の特徴となっています。孤独な羊飼いが通り過ぎる人々のためにポプラの樹皮に言葉とイメージを彫りつけたように、ランダースもまた、後に残る物は唯一作品であることから、自身の最も深い内面性を未来に残そうと形にします。この点で、作家と未来の鑑賞者はともに時間旅行者です。鑑賞者は絵画が描かれた過去の空間に遡り、作家は作品を通じて未来に進みます。ランダースはこのように語っています。「ぼくが立つ場所、このキャンバスの前で、今あなたが読んでいる痕跡を刻みつける。ここが地球上に存在する最高の場所だ。」絵画の前に立つことは、過去と現在と未来に同時に立つことができる数少ない場所のひとつなのです。
151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-10-11 B1
Tel:03-6434-7010