60年にわたり多彩な分野で異なるものを繋ぎ、新たな回路を作ってきたオノ・ヨーコ(1933年-)。本展は、これまで主に戦後アメリカ美術のなかで語られてきたオノの活動を、出身地である東京という都市の文脈で再考するものです。作家活動を開始するまでの関連資料や創作、1950-70年代の東京での活動、近年の作品を通して、近代と現代、欧州と日本と米国、美術と音楽と文学、前衛とポピュラーカルチャー、そして社会と個人を繋ぐ独創的な創造活動を紹介します。
オノは独自の詩のあり方を核とする、コンセプチュアル・アートの先駆者として、社会のシリアスな課題を、ユーモアに溢れたアプローチで多くの人に向けて発信してきました。本展は、戦前に既に充分に国際化していた東京を起点に育まれたその軌跡を、今日的視点から辿る絶好の機会となるでしょう。
©YOKO ONO 2015
1930年代、オノは自由学園で音楽教育を受けました。そこでは時計の音など生活のなかで触れる音をもとに作曲するなど、芸術と生活を線引きすることのない考え方に接しました。それは、1950 -60年代の米国の音楽動向に触れる遥か前のことでした。本展ではアーティストとしての活動を開始するまでのオノを育んだものや初期の活動を紹介します。
そして、1964年の夏、2年半の東京滞在の集大成として発行されたオノの代表作であり、コンセプチュアル・アートの歴史の中でも重要な本『グレープフルーツ』。本展では、葉書に記されたその膨大なタイプ原稿や、1962年の草月ホールで展示された指示絵画を複製絵媒体に変換し、コンセプチュアルな性格を進めたものなど、日本初公開の作品も紹介します。また、そのオリジナルの手書きの指示絵画に加え、当館蔵の『グレープフルーツ』初版本もあわせて展示することで、音楽における楽譜のように、簡潔な言葉によって、鑑賞者の想像や行為を喚起する新しい美術のあり方が、東京で展開した過程があきらかになるでしょう。
東京では日比谷野外音楽堂が会場となった1969年暮の「WAR IS OVER!」のジョン・レノンとのキャンペーンの企画や、環境をテーマに掲げた1974年の「One Step Festival」(郡山)への参加など、オノは1960年代から社会の課題に向き合い、広告媒体を用いたコンセプチュアル・アートとして発表するだけでなく、野外コンサートやレコードなど、ポピュラーミュージックの方法で、広くメッセージを発信してきました。また近年は、様々なところで起きた暴力を主題とする美術作品や曲を制作しています。それらは、オノ自身の個人的な体験と、多くのひとの記憶とが交差するものとなっています。
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