李禹煥 (1936年〜)は韓国に生まれ、1956年より日本に在住し、60年代後半より「もの派」の中心人物として活躍。確立された独自の表現は、派の定義を越えて、現在に至るまで国内外で高い評価を得ています。
近年の主な活動として、2010年、香川県直島に李禹煥美術館がオープン。2011年にはNYグッゲンハイム美術館、2014年のヴェルサイユ宮殿での個展開催などが挙げられ、常に国際的な注目を集めています。
本展では、1968年の発表後に紛失した幻の絵画作品シリーズ "風景" の再制作が展示されます。李禹煥の制作様式が確立する以前の貴重な作品で、以降の展開に通じる要素を多分に含み、非常に重要であると位置付けられています。近年出版されたカタログ、李禹煥美術館、グッゲンハイム美術館およびベルサイユ宮殿個展のいずれにおいてもテキスト中でこの作品について言及されています。
李禹煥の作品は、意図的に「作らない」ことによって「余白」を生み、制作行為を極力そぎ落とすことによって成立しており、ある空間に固有の緊張感と静けさを引き出しているのが特徴的です。
再制作される "風景" の、蛍光色のオレンジやピンクで塗られたキャンバスは、一見して今までのどの李作品とも接点がないようにみえます。展示をすると、強烈な色が画面内にとどまらず床や天井にまで反射するという現象が起こり、部屋そのものが色に染まってしまいます。絵画を観る鑑賞者が、空間そのものに包まれて、絵画・色に侵食されるという反覆した状況が生まれます。
この作品は絵画であることを超越して、場所に対して影響を及ぼす存在へと増長していくのです。
ただ色が塗られているという単純な状態が空間全体を脅かす影響をもたらすこの初期作品シリーズ "風景" は、その後「余白」の存在を作り出す、空間そのものを強く意識する李禹煥制作スタイルの礎のようにもとらえられます。
表現は異なるものの、知覚と空間に対する強い問題提起を有しているという点で共通しており、作家の制作に対する一貫した姿勢が感じられるのではないでしょうか。
今回の展覧会では同時に近作絵画も展示され、変容を対比しながらご鑑賞いただけます。是非ご高覧下さいますようご案内申し上げます。
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