木材や鉱物、土砂などさまざまな素材の調合が層をなすボスコ・ソディのキャンバスは、亀裂が走る地表や赤黒いマグマの流動といったエネルギーの放出を連想させ、大地の記憶に働きかけるようです。
化学工学を学んだ作家は、独自の顔料や素材の探求を重視し、素材との直接的な対話に立ち返ります。そして訪れる土地の地理的、文化的な条件を参照しながら、素材を確かめるように素手で制作していきます。接着した表面の層は、やがて乾燥して縮み、ひび割れ、複雑なテクスチャーをもつ抽象的な表情を生み出しますが、こうした素材の変形を創意にみちた自然のジェスチャーととらえ、ソディのキャンバスはそのあるがままの軌跡を記録する媒体となります。それは作家の意志によって造形を作りこむ一方的なコントロールを避け、素材がもつ物理的な性質や偶然性を受け入れるソディの一貫した方法論といえるでしょう。
ソディは学生時代に、スペイン・バルセロナに渡り、カタロニアの風土を強く作品に反映したアントニ·タピエス(1923- 2012)や、「生の美術」をたたえたジャン・デュビュッフェ(1901-1985)の影響を受けたといいます。
ソディ作品における有機的な性質や苛烈な色彩、絵画制作への身体的な関わりについては、アンフォルメルをはじめとする「熱い抽象」を感じさせ、メキシコの文化を背景に、体感的な色彩をスピリチュアルな鑑賞へと高める強い志向が現れています。一方で、地表の断片のような作品の形成は、プロセスを自然に委ね、その土地の天候や湿度に左右される環境的な性格を併せ持っています。
漆の学名である「ルス・フェルニシフルア-Rhus Verniciflua」展は、日本文化に根付いた漆を用いた新作を中心に構成されます。朱と黒、二色のパネルに施されているのは漆の樹液とそのおが屑であり、またフィールドリサーチから持ち帰った火山岩に、金色の釉薬を施した新作では、地殻から噴出したマグマが生む大小様々の岩石に人為的な陶芸の技術を掛け合わせています。
本展では、枯山水にみる岩の役割、または漆器に見られる箔の効果など、制作地である日本の文化的背景に関わりながら、自然の変化や移り変わりを重んじるソディの考えが、日本古来の美術観へと接合する新たな試みとなるでしょう。
ボスコ・ソディは、1970年メキシコシティ生まれ。化学工学と絵画を学んだのち、バルセロナに移住。素材のひび割れを特徴とする制作方法を確立し、以後ベルリン、ニューヨーク、メキシコシティに拠点を広げ現在に至る。2007年メキシコ-バルセロナ-東京の文化交流プログラムの一環として、トーキョーワンダーサイト青山、クリエーター・イン・レジデンスに滞在。2014年には、安藤忠雄設計によるカサワビ基金をメキシコ・オアハカ州に建設し、アーティストのためのレジデンシーや地元コミュニティとの美術教育を目的とした多目的スペースとしてオープンする。主な展覧会に、2007年「素材の精神-Lo spirit della material」(MIAAOトリノ国際美術館、トリノ);2010年「パンゲア-Pangaea」(ブロンクス美術館、ニューヨーク);2012年「クロアチア-Croatia」(サン・イルデフォンソ美術館、メキシコシティ)など。主なコレクションに、ドイツ銀行、IBMビルディング、フーメックス・コレクションほか多数。
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