GALLERY MoMo Projectsでは8月29日(土)から9月26日(土)まで、当ギャラリーでは阪本トクロウ5度目の個展となる「中空」を開催いたします。
阪本トクロウは1975年山梨県生まれ、1999年東京藝術大学美術学科絵画科日本画専攻を卒業した後、さらに早見学園日本画塾で学び2001年に卒業しました。
具象作品でありながら極めて抽象性の高い、福田平八郎につらなる作品を雲肌麻紙に描き、しかし画材にアクリル絵の具を用いて、作家が生きる日常的で身近な風景を要素だけに凝縮して淡々と描き続け、日本画のフラットな要素を残しながらも、独自の絵画世界を構築して来ました。
写真のように風景を切り取り、阪本自身の中に取り込まれた後、アウトプットされた作品の多くに、空などで何も描かれていない空白のスペースを作り出し、鑑賞者に想像の余地をもたらします。また、日本画や西欧の抽象画を参照したような作品も、一度自身の中に取り込み、同じシリーズを違うサイズや手法で繰り返し制作することで、既存のイメージが作品の中央から離れ、様々なものと結びつきバランスを取ることで阪本の作品となっていきます。
今展のタイトルとなっている「中空」は、臨床心理学者の河合隼雄が「中空構造日本の深層」で述べた日本社会独特の構造であり、外側だけあって中が空いている構造のことです。阪本は自分の作品を河合が唱えるこの構造と結びつけ、作品の中で風景を描くことで空白のスペースを浮かび上がらせようとしています。
岡倉天心が「茶の本」で述べているように、阪本も自己を押し付けるような表現を避け、自分をからっぽにすることで、鑑賞者は作品の世界に入り込み、自身の記憶や思い出を引き出すことで郷愁を感じ、阪本作品に共鳴を受けることができます。
従って作品のモチーフは極めてローカルですが、描かれた風景には日本のどこにでもあるという共通性を有し、特定された場所にも関わらず、どの人にも見たことのある身近な風景として感じられます。阪本作品を経験した後では、高速道路の走行中の風景や山頂の鉄塔、信号待ちの交差点など現実の風景に既視感を覚え、阪本作品にフィードバックし、それは作品を見た時にも記憶にある現実の風景を想起させ、同様の感覚をもたらします。作家と鑑賞者が作品を通して交差し、現在と過去の記憶が交差する場として、意識的に描かれたものです。
阪本は自らの作品にもその要素が多分に含まれると考え、今展のテーマを「中空」とし15点ほどの展示を予定しています。作品は抽象性と現実感が矛盾なく結合し、静謐な画面と空間は禅の境地に連なるようであり、シンプルでフラットな画面を通してその世界観に浸っていただければさいわいです。
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