児玉画廊|京都では8月29日(土)より9月26日(土)まで、大谷透個展「カサブランカ」を下記の通り開催する運びとなりました。
今回が初個展となる大谷は、これまで児玉画廊においてシリーズ展開しているグループショー「ignore your perspective」として開催された「モノの流用、イメージの引用、その次」(2014年7~8月)、「CHAIN REACTION」(2015年6~7月)において、既成のイメージを引用・参照する制作態度、そして、その引用元から連鎖反応的に別のイメージを拠出すること、という二段階の視点から紹介しました。この二点の特徴は、大谷の作品を見るにあたって、特に要点を成すものであり、今回の個展においてもまた同様に作品理解の足がかりとなるものです。
大谷の作品は、平面作品であれば様々なプリントされた既成イメージに加筆・修正を施して制作されます。商品パッケージのデザイン、服の型紙、木材の規格マークスタンプ、サンドペーパーの裏側にプリントされているブランドロゴマークなど、様々な図案を素地として、それらに色鉛筆を使い細かく線や塗りを加えることで、オリジナルからは予想だにしない状態へ改変していく手法を取っています。色鉛筆を使って元の図案から不要と思える部分を塗りつぶしていくのですが、絵の具とは違い一息に広い面積を塗ることはできない上に、何度も塗り重ねていかねば深い色が得られません。したがって、延々と小さなストロークを重ねながら少しずつ色面を広げていく必要があります。大谷は、この恐ろしく面倒な作業の渦中にこそ面白いイメージが浮かぶのだと言います。塗りつぶし作業の途中に疲れた手を止めると、予期しない面白い隙間やもともと印字されている数字や文字の羅列が無性に面白い組み合わせに見える瞬間があり、その瞬間を拾いながら少しづつ、何を残し、何を消し、その組み合わせによってどういう場面が描き出せるのかを思案していくのです。既成のイメージを引用・参照し、連鎖的にイメージを拠出していくという大谷の特徴はこの点において明確に現れていると言えます。では、なぜこのような回りくどい方法を敢えて選ぶ必要があるのでしょうか。
大谷にとって、絵画を描くという行為の面白みが、白紙から何かを生み出す所にはないということが根源的な理由として挙げられます。幼少から、自由に絵を描けと白紙を渡されてもピンとこなかったという大谷にとって、既に面白くて格好良い図案やデザインがいくらでも身の回りに溢れている中で、自らの感覚に響いてくる「良いもの」選び取っていくこと、あるいは、その選び取ったものに新しい意味を付与していくこと、そういった行為にこそ想像力を傾けてきたのです。大谷の作品の中には、時々ルーレットやトランプを始めとするゲーム用具が要素として取り入れられています。ゲームは、そのルールを知らない者にとっては、まるで暗号のやりとりのように使用する道具や行為の全てが謎めいています。しかし、一旦そのルールが理解されると意味不明であった諸々の関係性が誰にとっても明確なものとなります。ゲームにおいて「ルール」というほんの些細な境界線の内外では歴然と異なる世界が広がっていることに、大谷はインスピレーションを掻き立てられると言います。大谷がある既成のイメージを引用する時、それは、そのイメージが既に「何らかの意味を持っていること」が前提としてあります。企業ロゴならそのブランドイメージとしての役割があり、文字や数字なら言わずもがなそれが示す意味が必ずあります。大谷が手を加え、その本来の意味を奪い去っていくことで、「現実と虚構の双方に足を突っ込んだ」状態にしていくのです。既成のイメージを使うということは、その本来の意味がわずかにでも読み取れる限り、いかに荒唐無稽にイメージを連鎖させていっても、「何かの意味を持っていたもの」であるという動かせぬ事実があり、その上に危ういバランスで成り立つ「虚構」を大谷は構成しているのです。
今回の個展では最近特に関心を持って取り組んでいる立体的なアプローチからの作品が展示の要になってきます。リサイクルショップで見つけた使途のわからないケース、ホームセンターで叩き売りされている木材の破片など、それらは役割を半ば破棄された状態で大谷の前に現れ「何をイメージするのだ?」と暗号文のように問いかけるのです。インスタレーションに際しては、壁面に展示される平面作品と空間内に設置される立体作品とがお互いの距離を測るように配され、その緊張感の中から関連性や物語が薄っすらと浮かび上がってくるような構成を追求します。まるでドミノ倒しかオセロのようにある作品のイメージが別の作品のイメージを喚起して連鎖的につながりながら多彩に翻っていく様子を鑑賞者は展示空間を巡りながら追従し、大谷が綱渡りのように辿っていく「現実と虚構の間」にあるイメージの境目を行きつ戻りつするのです。
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