児玉画廊|東京では8月22日(土)より9月26日(土)まで、伊藤隆介個展
「All Things Considered」を下記の通り開催する運びとなりました。
実験映像、ファウンド・フッテージの作家として、あるいは漫画・美術・視覚メディアを縦横に切る批評家(村雨ケンジ名義)として、そして、近年では特に映像インスタレーション「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズの発表で国内外から注目を集めている伊藤隆介の、児玉画廊における二回目の個展となります。札幌を活動拠点としている伊藤にとって、東京においては「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズを体系的に見せる個展形式での初の発表機会となります。
「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズは、作品形態として映像と造形部の大きく2つの要素から構成されています。まず、作品を前にして一番最初に目に飛び込んでくるであろう映像は、基本的にプロジェクションによって壁面に大きく投影されています。そこにはニュースかドキュメンタリーの報道映像、あるいは、SF映画か特撮番組のワンシーンかと思わせるものなど、迫力と臨場感を感じさせる映像が映し出されています。一見すると、作品の趣旨に合わせた録画・記録映像を流しているように思われますが、視線をその脇に据えられている造形物へ移すと、その映像が実はライブ映像であること、つまり今眼前にある造形物をその場で映しながらリアルタイムでスクリーニングしていることに気付くのです。造形部をよく観察すると、映像上に映しだされている様々な物がミニチュアのオブジェとして居並んでおり、それらを撮影するための小さなCCDカメラが設置されています。モーターによってCCDカメラが移動しながらオブジェを写す仕組みのもの、あるいはカメラは固定されているがオブジェがモーターによって駆動するものなど、カメラとオブジェの関係性は様々ですが、基本的な構造は共通しています。作品の実体部分となっているこの造形部は、プラモデルやジオラマ製作で使われるようなミニチュア部品などの様々な既製品をアレンジしたり、必要に応じて一から自作するなどして造作され、コンパクトながらもスケール感のある作り込みはまるで映画やTVの撮影セットを彷彿とさせます。カメラに映り込む範囲は、工夫を凝らして細かなニュアンスまで念入りなリアリティの追求がなされています。しかし、その裏側へ目を向けると、固定用のボルトやネジ、テープなどが剥き出しのままハリボテ状にお茶を濁してある様子や、オブジェの配置決めのための罫書きやメモ書きが残っていたりと、映像に映し出されないと分かっている部分ではあからさまに手が抜いてあるのです。本物かと見紛うような極めてリアルな映像を見せつけておきながら、そのリアリティを生み出しているのが手作りの痕跡さえそのままの存外に拙い造形部であるという極端なギャップを敢えて示すこと、この伊藤の策略に嵌ることで、誰しもがまず我が目を疑い、そして、映像というものの真実(リアリティ)とは一体何であるのかという疑問を抱かずにはいないことでしょう。
幼少期から特撮映画の舞台裏やメイキングなど、スリリングな映像そのものよりも、その裏側にある技術や演出手法にむしろ魅力を感じていた伊藤は、以来、詩的な実験映画の作品や、フィルムの物質性を再定義するようなカットアップ/ビデオコラージュ作品「版(Plate)」シリーズなど、映像の持つ表現手法の可能性の広さを研究する作品を多く手がけてきました。それら作品制作の積み重ねてきた上で、映像というものが、その内容の真偽に関わらずそれを見る人々に真実味(リアリティ)を植え付けるメディアであるということを深く認識しています。映像の中では、ありえないことをさも現実のように見せることができ、また、逆に事実を歪めることさえもまた同様に容易く、それはプロパガンダ的悪意であれエンターテイメント的善意であれ、映像というメディアの持つ宿命であるのです。日々、様々な映像に触れ、あまりに身近にありすぎることで、その真偽に無関心あるいは鈍感になりつつある我々に対し、「Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズは、創意工夫に溢れた仕掛け装置とダイナミックな映像に心が躍るようなエンターテイメントとしてありつつも、ふとした瞬間に、鑑賞者が「何を見ているのか」「何が真実か」という疑念の迷路に入り込む悪戯な手招きをしてくるのです。
児玉画廊|京都での個展(2015年3~4月)においては、展示スペースの広さを巧みに利用し、大写しにした映像のスケール感と造形部の意外なまでの小ささの差異を際立たせることで、リアリティの所在を不安定にさせつつも、壮大なアトラクションを巡るような体感的な空間構成がなされていました。今回は、京都では未発表の大作「Field Watcher」(初出:札幌国際芸術祭2014 / 500M美術館)を始め、Realistic Virtuality (現実的な仮想性)」シリーズの特質である映像と造形部のリンクとギャップがより肌身に迫るような緊密なインスタレーション構成を予定しています。
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