児玉画廊|東京では7月11日(土)より8月8日(土)まで、ignore your perspective 31「絵画を作る方法」を下記の通り開催致します。
杉本圭助、関口正浩、和田真由子、益永梢子の四名の作家を紹介し、それぞれの作品における技法/手法やコンセプトの上で、彼らがいかなる「絵画を作る方法」に挑んでいるのかにフォーカスした展示構成を試みます。
杉本圭助
平面作品、立体作品、パフォーマンスなど、独自のロジックで展開される総合的な表現を続けています。特に近年注力している平面作品のシリーズで、多色多重に絵の具の塗りを重ねた画面を彫刻刀で彫り込み、その切断面に細やかに表れる色の断層によって様々な示唆を鑑賞者に与える作品シリーズから、新展開のものを含め最新作を発表します。杉本の作品は表現する主体が時間、空間、存在についての思考体系であり、絵画作品においてはそれを線や色彩によって思考モデルとして可視化していると見るべきものです。画面に生じるわずかなひび割れを想定して絵の具の層の乾燥速度や塗りの厚みを入念に制御すること、彫刻刀による切り込みが見せる断層によって埋没した下層の画面の様子をほのかに窺わせること、一枚の絵画を構成するそうした些細な要素の一つ一つが、時間軸や空間性を圧縮したり歪めたりひっくり返したりしながら画面に内在させようとする杉本の思考の断片としての役割を与えられているのです。
関口正浩
絵の具を塗り広げた塗面を乾燥させた後に剥がして作る、布地のような色彩の膜をキャンバスに貼り付けることで色面とする平面作品を制作しています。関口は絵画の絵画としての在り方、描くという行為そのもの、絵画の根本に対して懐疑的な態度であり続けています。絵の具の膜は、例えるなら色彩を物質化したものであり、それ自体がすでに固体化されておりキャンバスやパネルなどの支持に頼る必然性がありません。しかし、無重力下でもなければ膜をそのまま保持する手段は限られるため、現時点では仮にキャンバスに貼り付けておく、という状態に甘んじています。この、必ずしもキャンバス等を必要としない、という前提を持っていることで既存の枠にはまった「絵画像」からいつでも逸脱できるのだという可能性を多様に示すことができるのです。今回の展示では関口のこの独特の絵画に対するアプローチを顕著に示す作品を展観致します。
益永梢子
線と色面についての規定が先にあった上で絵画を描く、キャンバスシートの表裏に描かれ折りたたむ/折り曲げるという結果に応じて随時変遷する絵画、キャンバスを前にして行う日常行為(洗濯物をたたむなど)の所作がダイレクトに線描になっていく絵画など、描くことに加えられる何らかの要因が複合的に作用し、その結果として絵画が導き出されていくような制作が特徴的な作家です。今展覧会の「絵画を作る方法」というタイトルは益永の同名作品シリーズ(「絵画をつくる方法」)からの引用であり、今回の出品作はその最新作として制作されたものです。キャンバスシートに描かれた様々な色面や線が表裏に関連するように描かれ、それに展示用のハトメがつけられています。通常作品を壁にかけるためにピスや釘を壁面に打ち付けますが、今回益永が試みるのは、それを逆転させ「40cmの間隔で打ち付けられた2本の釘」があらかじめ壁面にある状態でそこに作品を掛けることです。作品に空けられたハトメの穴は必ずしも40cmの間隔になっている訳ではないので、従って、捻じ曲げたり、たわませたりすることで無理やりにでも掛けなければなりません。そうすることで、作品の形状が釘に従って自ずと規定されていくのです。
和田真由子
「イメージにボディを与える」というコンセプトの下、「絵」というものに独自の解釈を見出して絵画や彫刻といった分類を超越するような作品を制作しています。例えば「建物」を頭の中でイメージしたとしましょう。それは煉瓦造りの直方体をしており、いくらかの窓があって、、、となんとなく図面を描いたような状態でぼんやりと造形が見えてきます。それを「そのまま」頭の中から取り出してくる、ということを和田はどうにか実現すべく試行錯誤しているのです。「そのまま」という事は、知識や資料に頼って本当は想像できていなかった部分を補完する事が許されません。例えば、透視図法で描いたようにひし形や長方形の組み合わせで建物が頭の中で見えていたとしたら、それを「そのまま」形にしていかなければなりません。当然のごとく、和田は、ベニヤ板で建物の壁面や天井面などを頭の中で見えるままに切り出して組み立てていきます。しかしながら、透視図法によって歪められた方形が空間的に成立するはずもなく、結果としては無理やり組み立てた歪な建物(らしきもの)が出来上がります。今回は、そうした二次元的な認識と三次元的な認識の間にある微妙なバランスを絵画的なアプローチから瓦解させていく面白さがある未発表の作品を展示致します。
絵画は何かを「描く」ことによってのみ作られるのではないと示すように、今回紹介する4名は、絵画を作る「方法」に準拠して初めてそこに何がどのように描出されるかが決定されていくという手段を取ることで、規定路線からの意識的な離反あるいは転回をしていく中からそれぞれが新たなアプローチを見出そうとしているのです。つきましては本状をご覧の上、ご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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