遠藤利克(1950年〜)は70年代より制作活動を行っており、木、水、火などの自然素材を主に用いて制作された作品は、原初的な文明と社会の成り立ちを彷彿とさせる圧倒的な迫力を持っています。1990年のヴェニスビエンナーレでは日本館で展示、国際的にも高く評価されている日本を代表するアーテイストの一人です。
「空洞説」とは遠藤が2005年のSCAI THE BATHHOUSEでの個展で初めて提示した主題で、以降このテーマに沿った作品が展開されてきました。
遠藤にとって空洞とは、何もない空虚な状況ではなく、すべてを吸い込む引力と魔力のあるところ、また無限の幻想の根源を意味し、日常の境界線を越えた吸引と放出のちからを孕む場として捉えられています。
そして今回、SCAI THE BATHHOUSEに於いて10年ぶりとなる個展では、その集大成的なインスタレーション空間が作り上げられます。
本展ではギャラリーの床に穴が掘られ、水を満たした金属製の箱が埋め込まれます。またそれに対峙するように壁には柩のような空の箱が取り付けられます。
鑑賞者は、水によって強調された地中の空洞を感じながら、目の前の空の箱を見ることになります。このような、いわば空洞の上で、空洞をみつめるという状態に置かれたとき、ただ見ることを越えた身体的な感触が立ち現れ、遠藤の提示する「空洞説」の世界へと引き込まれていくことになります。
さらには副題の〝水の座〟が示すように、足の下の水を湛えた空洞はそれによって水平性が強調され、目の前の壁面が垂直であると強く意識されてきます。
この水平と垂直の関係は、今どこに自分が存在しているのかを考えさせる装置となります。足の下と目の前が空洞であるがゆえに、感覚は天文学的なスケールにまで引き延ばされ、最終的には宇宙の中で自分が今どこに立っているのかという問いにまで行き着くことでしょう。
人の持つ感覚的な部分に強く訴えかけてくる遠藤利克の新作インスタレーション、是非ご期待下さい。
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