この度メグミオギタギャラリーでは、3回目となる蝸牛あや新作個展「光の石、雨、花」を開催します。蝸牛あやは2001年に多摩美術大学彫刻科を卒業し、その後刺繍を用いた作品を制作し続けています。
刺繍は世界中で長い歴史を持ち、家族をはじめとする共同体、あるいは個人に対する魔よけやお守り、祈りの象徴として女性の手で受け継がれてきました。それは衣服への装飾という意味合のみならず、生活の中に密着した信仰でもあったのです。日本においては飛鳥時代に聖徳太子の死を悼んで制作された天寿国繍帳がその最古の遺品として広く知られています。
太古の昔、美術は鑑賞するためのものではなく、呪術の手段として実際に力を発揮するものと信じられていました。布の表裏を針で刺す行為を繰り返す刺繍はその行為自体が象徴的な意味を持ちます。効率性と大量生産の現代において、そのような純粋な祈りの表現としての刺繍は失われつつあります。しかし、そのような時代においても、頭上に広がる空や春の訪れを告げる野の花に目留め、心奪われる瞬間をわたしたちは失いはしません。むしろ環境が目紛しく変化していく中にあってこそ、そのような美しい瞬間や、温もりある手の痕跡への希求は強まっているのではないでしょうか。蝸牛は、現代において形式化した「祈り」を、一針一針思いを込めた刺繍作品を通じて、その本質へと導きます。
今展で蝸牛は、空、石、光や蝶などをモチーフとした最新作13点を展示します。また、作品の原型を鉛筆で表現可能なところまで表現したドローイングを7点出品します。石は蝸牛にとって初めて取り組むモチーフです。蝸牛は、ひとつの石ころをじっと見ていると、そこにはまるで長い長い物語があるように感じるといいます。ひとつひとつの粒が静かに積み重なり層となり、きらきらした大きさの違う粒が光ったり、小さな穴がぼつぼつとあいている姿は、呼吸をしているようにも見えます。筆で描くのでは表すことのできない石の豊かな表情が刺繍によって見事に表現されています。
その時々によって絶え間なく表情を変える空や光などの自然のモチーフは、実際の自然以上に人の心に届く表現へと昇華させることが非常に難しいモチーフです。しかし蝸牛は、見たものの美しさや、その時の空気を縫いつけることで、ずっとそこにあるものへと形づくっていきます。布はやわらかく、そこに刺される糸は、花びらにも羽にも光にもなります。絹糸が、光、見る角度、あるいは時間によって、色や光沢が変化して見える様子と重なり、私たちに作品を通してイメージをたぐり寄せることを可能にしてくれるのです。
蝸牛あやの一年ぶりの新作展「光の石、雨、花」に是非ご期待下さい。
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