児玉画廊|京都では6月20日(土)より7月25日(土)まで、鷹取雅一個展「Astral Sketch」を下記の通り開催する運びとなりました。
鷹取はドローイング、ペインティング、コラージュなどを制作の主軸としていますが、その作品のモチーフはもとより、画材、技法のいずれの点においても独特の世界観が際立ちます。特にモチーフは殆どの作品において女性の裸体ですが、いわゆる想像に易い「裸婦」というよりも、猥雑なイメージばかりが描かれています。しかしながら、鷹取の作品は単に作家の性的な関心の表出といったものでもなければ、鑑賞者に不快感や興奮ばかりを求める趣旨のものではありません。そういった性描写に導かれる高揚感によってではなく、むしろ作品の中に溢れかえっている性的なイメージが別の要素によって相対化されているという点に鷹取作品の特異性が潜んでいるのです。その要素とは、描写方法、画材、展示構成の独自性とそれらが複合することにあります。
そして、展示構成においては、見るものを狂騒の中に巻込んでいくような三次元的構成やインスタレーションとして提示され、それが時にはアスレチックのように肉体的な負荷を必要としたり、あえて作品が見辛いような何らかの制約を加えるなどの、鑑賞者にとっては煩わしい働きかけとなっています。常識的な鑑賞環境とは対極にある、騒がしく、乱雑で、点数過多で、しかも見辛いという悪条件を敢えて鑑賞者に突きつけながら、しかしその実、作品に満ちた空間は突き抜けた強度をもって泰然と現れているのです。
誰しもが少なからず内面に持っている醜悪さや性的なものなどへの心理的欲求について、それは鷹取の中では美しいものやエレガントなものを愛でる欲求と等しく、そして、それらを極力秘めて表には出さずにおこうという社会常識や、その常識に起因する美術制度上の規定路線(モチーフの是非、表現手法、展示方法など)に対しての批判の道具としてあるのです。この道具を使って、鷹取は常に鑑賞者を戸惑わせ、誘惑し、思考を右往左往させて自嘲とも諦めとも似た気持ちへと誘導していきます。作品一つ一つに目を向ければその都度思考を掻き乱すような不遜さに、空間全体としても立ち入るのを躊躇するような不敵さに、鷹取の興じる「悪意」と直面することになるのです。
今回の個展では、ドローイングやペインティングを空間に乱立するスタンド状の構造に取り付けて展示します。そのスタンドにもペイントや写真のコラージュが施されていることによって、空間内で作品の境界が曖昧になり、高く掲げられるように置かれた作品を見上げたり視線をあちらこちらに絶えず彷徨わせ、木立を抜けるようにくねるような動線で展示室を巡る内に、いつしか作品の渦中に飲み込まれるように逡巡している自分に気付かされることでしょう。
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