シルクの布地に木炭と顔料で描いたドローイングや、パターン反復した壁紙のインスタレーショ ンによって、松本尚はこれまでも自身の絵画領域を自在に拡張してきました。ギリシャ神話をはじめとした古今東西の神話や伝承、教訓や風刺が織り込まれた童話、J・D・サリンジャーの現代 文学作品まで広範なエクリチュールからエピソードを抜きとり、具象的なアプローチで描きこんだこれらの作品では、作家の視点によって抽出したイメージが編集され多層的に重なり合っていま す。ここではフィクション世界が現実と対をなすもうひとつのリアリティーとして捉えられ、連なるイ メージが私たちの心理を投影する「皮膚」のように展示空間を取り巻いています。
「この惑星のこども:Wonder Beast」と題した本展では、展示空間をおおう壁紙と、架空の部屋へと続く体感的なインスタレーションによって構成されています。そこには、意識と無意識の境界を 行き来するピエロの衣装、耽美的な作風で知られる小説家オスカー・ワイルドの木椅子、朝日 焼・松林祐典コラボレーションによる陶器のオブジェなど、異なる領域から集ったモチーフが意 図的に混在しています。「イメージとイメージの見えない緊密な糸の均衡による緊張感と、多層 的に引っ張り合うバランスで」(作家談)つくられたこの空間は、観る人それぞれの記憶に呼応し、鑑賞のうちに密やかな共鳴感覚を引き起こす体感の場として企図されています。
松本尚は、1975 年兵庫県生まれ。京都市立芸術大学美術研究科ビジュアルデザイン科修士課 程修了(2000 年)。主な展覧会に、「SENJIRU-infusion」 Galerie Kashya Hildebrand(チューリッヒ)、2010 年「MOT アニュアル 2010:装飾」(東京都現代美術館、東京)、2013 年「川越え:キラキラヒカル」(長谷川祐子キュレーション、川越 市蔵造り資料館、埼玉)ほか多数。2015 年 5 月には、NEMIKA(広尾店、玉川店)でのアーティスト・コラボレーション企画、7月にはうつのみや妖精ミュージアムにて個展を予定。
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