伊藤 彩の絵画には、おばけやチープなおもちゃのようなモチーフが登場します。その描かれるものの荒唐無稽さによるだけでなく、次第に見る者にはある種の混乱が生じてきます。個々のモチーフは、ある奥行きの中にまさにコラージュされているようにも見えますが、作品全体としては、独特のねじれた空間性をもって見えるからです。
これは、彼女特有の制作のプロセスに由来しています。伊藤はまず、自身で制作したキャンバスのペインティングや紙のドローイング、陶器の立体物、布、家具などを室内にセットして、ジオラマを作ります。この大きさは、時に幅、高さ、奥行きが5mを超えることもあります。そして、ジオラマの作品世界の中に伊藤が入り込み、写真に撮ることで、自身も思いもよらなかった構図やアングルの視覚的効果を念入りに検討し、のちに、実際の絵画制作に入るのです。
伊藤が「フォトドローイング」と呼ぶ、この緻密なプロセスが、濃密なリアリティとなり、しかし一方では空間性を無効にするかのように、オールオーバーに展開する色彩の海があり、脱力感溢れるモチーフの表情があり、こうした要素が合わさって、見る者を中毒的な魅力に引き込みます。
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