山本現代では2015年4月11日(土)から5月16日(土)まで、ナイル・ケティング個展「Hard In Organics」を開催いたします。
ケティングは近年「センシング(感知、感覚)」というテーマを中心に、映像、インスタレーション、サウンドアート、パフォーマンスなどの領域を縦横無尽に渡り精力的に制作している注目すべき若手アーティストです。日本では昨年アートフェア東京会場にて「ESSE」と題された展示を発表し鮮烈な印象を残しました。彼は学生時代より勅使河原三郎氏に師事しパフォーマンスを始め、現在はベルリンでコンスタンツァ・マクラス率いる「ドーキーパーク」にてダンサーとしても活動しています。これは、「無機的なもの」を多用した作品と「身体」とを平行して考察しているケティングの重要なファクターと言えます。
今展では、新作の映像作品を軸に、圧電素子*2、ピエゾフィルムシート*3、クリスタル等で制作された作品群で構成された展示をいたします。
新作の映像作品「Deep Signals」はペルニオーラの著書『無機的なもののセックス・アピール』に書かれた「衣服としての身体」からインスパイアされた約20分の作品です。そこには6人の女性がエクササイズ、儀式、メイクアップ、刺青などの行為を通し、自身の身体への探求を行っている姿が映されています。彼女らは人間と人間以外の存在、世界と外界の間に位置し両者を媒介する「巫(かんなぎ)」としての役割を担っており、シグナルを発信することをやめた旧ドイツ民主共和国のラジオ局を劇的な空間へと変容させて行きます。また、ここで行われる行為を表す単語 "Aerobics" "Make-up" 等は、外界と内的世界の境界である皮膚をメタファーにした牛革にレーザーにて刻印され、展示されます。革の上に刻まれた単語の配置はまるで星座のようで、私たちの身体と宇宙との関係をも意識させます。
ピエゾフィルムシートというスピーカーを用いた「Piezo Electric Effect # P.Curie」は、ピエゾスピーカーの原理を発見した発明家のピエール・キュリーが妻のマリーに宛てたラブレターがモチーフとなっています。フィルムの表面にはラブレターの文章がプリントされており、それを読み上げた音声を編集した音響がピエゾシートから流れます。その連続音は抽象化された非常に電子的なものですが、鼓膜を刺激するその音によって、知覚した自らの身体の存在に改めて意識が向けられます。
この他に出品されるのは、2層のアクリル板の間に水晶が挟まれている譜面台状の作品「Music Stand」、圧電素子を連結させた音響彫刻、水晶の結晶群のインスタレーションなどで、展示室全体が一つの舞台空間のように構成されます。
無機的なもの"、電流、電子部品、クリスタル、などから発せられる微弱な電磁波や音響が、皮膚、鼓膜からの知覚を媒介として、身体と並列され影響を与え合い、そこからまたアウトプットされる・・ここから生まれる考察は、芸術も科学も哲学も全てが未分化であった根源的な知の地平へ私たちを導きます。
このようにケティングは身体、ひいては人間と世界との関係を改めて考察する全く新しい潮流を感じさせる希有な作家であると私たちは考えています。
展覧会初日には、展示空間の中で作家自身によるパフォーマンスも発表されます。また会期中にはアーティストを交えたトークセッションを予定しております。
*1マリオ・ペルニオーラ、岡田温司・鯖江秀樹・蘆田裕史訳「無機的なもののセックス・アピール」p.12 l.9 2012、平凡社
*2強誘電体の一種。震動や圧力等が加わると電圧が発生し、また逆に電圧が加えられると伸縮する素子のこと。
*3圧電効果を有するプラスチックから製造されたフィルム状の圧電素子。
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