坂井淑恵の作品では「人」と「水」が大きなテーマとなっています。「人」とは人の感情や他者との関係性を意味し、「水」は状況や人の立ち位置のようなものを表現していると言ってよいでしょう。
2006年の個展では、人が消え突き放したような風景が表れました。その後水面が表れ、水中の空間が徐々に広がってゆき、やがて人が水中に飛び込むようなイメージが表れたのです。水中とその上の空間が表れたと言ってもよいでしょう。
前回の個展では、飛び込んだ人が水面から頭を出す作品がありました。水中・水面・その上の空間が繋がったのです。今回の「UPSIDE-DOWN」展では更に上下の空間が混じり合うような表現になっています。
言葉にするとわかりづらいのですが、近年の坂井の作品はそのような変遷をたどっていると思われます。具象絵画ではありますが、対象物を描くのではなく、抽象的な人の内面を描いています。その純粋で直接的な描写力には、見る者を納得させる強さがあります。澄んだ青系や緑系の色は心穏やかに、抽象的な絵画内容は、それぞれの個人の局面に寄り添いその想いを画面に投影させる事が出来ます。
1990年代、現代美術で絵画がタブー視されていた時代に、いち早く自身の思うままに自由に絵画を描いたアーティストの一人です。その強さ故、彼女の絵画作品には自由と生命力が宿っているのです。絵画というメディアの本質を坂井淑恵の作品は秘めているのです。決して声高にではなく、ただ美しく明るい色彩の中に、ただ確固として。
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