このたびBambinart Galleryでは、オオトモ クミコによる個展"ペーパーナイフはつくられた"を開催いたします。オオトモ クミコ(1979年、福島県生まれ)は2012年スクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ(ニューヨーク)を卒業、現在は多摩美術大学大学院に在籍しています。本年2月には、弊ギャラリーにてグループショウに参加、本展が初個展となります。
オオトモの作品の多くは、主に人物や静物を写実主義的に描いています。人物画ではモデルがいたり、想像上の人物や構図だったりしますが、イメージの着想は、安部公房の「箱男」やカミュの「シーシュポスの神話」などの登場人物から得たり、キェルケゴールやサルトルなど哲学者の言葉から得たりしています。描かれた人物は、時に嗚咽し、うな垂れ、あるいは自失して立ち尽くしていたりします。また静物画では、食物を描くことが多く、バナナや生肉がよく描かれていますが、そもそも食用であることを忘れさせてしまうような存在の仕方で描かれています。
実存主義的思考が大きく影響しているオオトモの作品には、その思想を背景に、葛藤や苦悩による絶望の渦中に存在する生気への興味が反映されています。つまり、完全な「究極なる絶望」には至らない不全な「希望を伴った絶望状態」の意識に焦点をあてています。 「希望を伴った絶望状態とは、死には至らないが一生癒えることのない不治の病のようなものである。そして、究極なる絶望に希望は存在しない。しかし究極なる絶望は希望に代わって、己が何者であるのか、真実とは何かを追求しようとする生きる力を与えてくれる。さらに絶望を突き詰めれば、我々が己自身であろうと強く欲する可能性に帰着できるのではないかと私は考える。希望が消滅した絶望の先にしか見えてこないものが必ずある。」(オオトモ クミコ)
ペーパーナイフはつくられた。それは、あらかじめ定められた目的のためです。しかし私たち人間は、どうでしょうか。オオトモが描く作品のその先を感じることで、触れられるものがあるかもしれません。
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