蛭子未央は1987年東京生まれ。2012年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。
2013年から1年間、NPO法人BEPPU PROJECT運営の「清島アパート」に入居。現在は東京にて制作活動を行う。
<都市の肖像>
東京で全ての情報を'見ようとしない訓練'を怠ると
情報の処理に自分が潰されてしまうため、
その訓練を終えた人の見る東京の景色は実はとてもさっぱりしているだろう、
そのままの景色です。(原文ママ) ー蛭子未央ー
大都市を情報の氾濫する海にたとえ、真夜中でも明かりがきらめく不夜城のような画像とともに紹介する。
東京という都市の常套句的表現として、今でもこのようなイメージを目にすることは多い。
そのなかでしばしば人間は、自らもまた一つのノイズとなり情報の海をあてどなく漂流する存在として描かれる。
蛭子が今回の個展の題材として選んだのは都市の風景としての東京である。
1年間の大分での体験を経て、情報という不可視の存在の重さに敏感になったという彼女は、
東京そのものの「景色」を描こうと試みながら、電化製品や家電量販店を主題としてとりあげている。
電化製品は、人工知能に近い機能を持ちながらも、しかし自らの欲望をもたないモノとして、
ひたすらに欲望の実行犯である人間がスイッチを押すことを待つ存在である。
狂騒的な喧噪を呈する家電量販店やハードウェアのイメージがそのまま内装に反映されたような
アップルストアのにぎわいは、情報やその背後にあるテクノロジーと、そこに向かう人間の欲望の
エントロピーを可視化した情景ともいえるだろう。
このきわめて現代的な都市の情景から、欲望の主体である人間の姿を取り除いたとき、そこには
「そのままの景色」としての東京がみえてくるのだろうか。
はたしてそこにはまだ、人間存在の確かさを実感する場所が残されているだろうか。
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