児玉画廊|京都では6月21日(土)より 7月26日(土)まで、升谷絵里香「Tipping Point」を開催致します。
升谷は各地で様々なプロジェクトを実行し、そのドキュメントとしての映像をインスタレーションとして発表しています。2011年の個展「For the Sake of the Moment !!」(児玉画廊|京都)、瀬戸内国際芸術祭2013における「Wonder Island」(小豆島、三都公民館:旧三都小学校体育館)など、積極的な制作発表を継続しています。
ボートで島を動かす (作品名:「島を動かす」、「Wonder Island」)、クリスマスツリーを洗車機にかける (作品名:「X洗車」) など、これまでの作品を例に挙げれば、文字で見る限り、いかにも突飛なアイデアが並びます。これらのアイデアを、万難を乗り越え完遂していく一連の行為と事の顛末をベースに映像インスタレーションが形作られます。
升谷のアイデアは確かに突飛ではあるけれども、鑑賞者は始めの内は予定調和な結末を想像しながら傍観者の視線を作品に向けています。しかし、一旦予期していたストーリーとは異なる方向へ事態が転換し始めると、冷めていた期待は途端に妙な昂りへと変わり、さらに結末を迎える頃にはその顛末の渦中の人さながら、ある種の感情とその余韻に浸ることになります。
今回の個展では、千葉県の本須賀海岸で撮影された「煙を起こす」プロジェクト(タイトル未定)、洗車機用回転ブラシを使用したインスタレーション「Stereamer Mixer」などが展開されます。人気のない砂浜に発煙筒のいかにも人工的なピンクの煙がぽつぽつと吹き出しては霧散していく様子が映像に映し出されます。
当初のプランでは13の煙が一挙に噴出する予定でしたが、実際には導火線の状況によって着火までかなりの時間差が生じ、あちらこちらでランダムに煙が上がるという想定外の状況になりました。しかし、この締まりのない状況においても、その行為と風景のミスマッチさ、奇異な現象が起こっているという事実、それを淡々と映像として記録し、提示します。
そして、その映像の投影画面と重なるような位置に「Stereamer Mixer」が展開されます。おもむろに、床から垂直に突き立ち、回転するブラシが映像の一部を遮り、鑑賞者の動線と視線を邪魔します。映像作品がプロジェクトの行われたある特定の場所と特定の時間を提示する物だとすれば、「Stereamer Mixer」は対照的に、「今」「ここ」という場所と現在進行形でそれが作用しているこの空間を強烈に意識させます。
この装置は、映像の中で繰り広げられるプロジェクトの臨場感を鑑賞者に想像させる起爆剤となり、また、ブラシが屹立し回転し続ける様子は、映像の中で風に渦巻きながら上昇していく煙の様子との視覚的な相関関係を生んで、空間と時間を撹拌します。升谷の作品において、「Tipping Point」(事象の転換点)、それは劇的なる瞬間ではなく、漫然と、しかし確実にその時を迎えるのです。
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