中村はいわゆる工芸や手芸、手技から着想を得たテクニックを駆使して、様々な形態の作品を複合的に構成するインスタレーションを制作しています。
今回の個展では、新たに七宝焼きの技術や、細やかなドローイングの要素がインスタレーションの要点の一つになっています。七宝はその工程の煩雑さや作業の緻密さなど、まさに中村好みの手法であると言えます。ガラス様の透明度のある質感や工程を経ると後戻りできない緊張感のある制作のプロセスは、中村を没頭させるには十分です。
また、インスタレーションは全体的に3x6のベニヤ板を基本として構成されます。壁面には養生テープで貼付けたり、斜めに立てかけてたわませたり、床に敷いてみたりと、様々です。その一枚一枚にはいずれも何かしらのドローイングが描かれています。思わず嘆息するような優美な線や淡く綺麗な色彩などで描かれていますが、しかし絵の良し悪しではなく「後味の無さ」が印象の多くを占めます。それは、そこに作為や意図があまりに感じられないからかも知れません。中村にとって、「適当」であることや「~し過ぎる」ことは、視点を変えれば理性的な判断を放棄した態度であると読み替える事も出来ます。取捨選択を止めて、何かに我を忘れること、それはどちらも能動的な作為や意図とは乖離する方向を示しています。それが絵なのか模様なのか、工芸や手芸なのか、果たしてそれが美術と言い得るか、そういった枠に落とし込む事は自らはしない、という中村なりのステートメントであると言えるかも知れません。
この中村の独特の立ち位置は、ともすれば予期せぬような革新的な事象すら生むのかも知れません。今回の展覧会に向けて作家が述べた次の文章に、本音が垣間見えているように思えます。
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