折り紙の展開図をモチーフに、鮮やかな色彩のプリズムを映した幾何学的パターンを描きだす小牟田悠介。折り紙のフィギュラティブな外観を解きほぐし、抽象絵画の構図としてそのままキャンバスに落とし込んでいます。立体から一枚の紙へと構築のプロセスを巻き戻しながら、色と面とが万華鏡のように展開する抽象絵画の世界へと私たちを誘います。
アクリル絵画を主体とする小牟田の作品は、そのハードエッジの色面に特徴づけられます。折り線を境にシンメトリーをつくるパターンがせめぎあい、重量を持たない光の動きを構築しています。入念な下塗りの上には、スプレーで色彩のレイヤーが重ねられ、エアブラシを吹きつけた波線や、サンディングで絵画の表面を削り取ることで出現する下層の色とのコントラストにより、見るものを惹きつける多様な表情を生んでいます。小牟田はこれまでも、「ブリリアント・カット」と呼ばれるダイヤモンドの研磨方式に強い関心を持ってきました。光学的特性を考慮して、光の反射率を最大に高めた切子面(ファセット)--そこに刻まれる計算された角度、リズミカルな形状やその幻惑的な繰り返しが、ステンレス鏡面を用いた連作にも反映しています。
本展のタイトルを説明するにあたり、作家は実体なく広がる色のはかなさを指摘します。折り鶴や紙飛行機などの折り紙もまた、広げていくとそのかたちは消え去り、残像のような幾何学模様に帰します。あるものとないものの境界に立ち上がる小牟田の大きなキャンパスが、色彩とパターンが織りなす体感的な鑑賞へと観るものを包み込むようです。
近代美術において抽象絵画は長く、感情やスピリチュアリティーによって結びつく安息の場を供してきました。誰もが親しみのある折り紙を介して、均衡と調和のフィールドを実現する小牟田悠介の絵画が、観るものの共鳴の場となるのではないでしょうか。
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