小村希史は1996年、当時アンダーグラウンドな音楽、またインディペンデントなミュージシャンで盛り上がっていた街シアトルに渡りました。その渡米中の体験の中で、音楽製作という表現は絵画にかわり、現在まで筆を握り続けています。
本展ではShowcase / MEGUMI OGITA GALLERYの小さな展示場所、開催期間2週間という限られた時間を生かし、新作の小作品を展示致します。
小村がShowcase (約3m x 3m)という制約がある空間、つまり大きいキャンバスは入らないという現状と対峙したことから今回の展示の構想が始まりました。それは東京という狭い街の中で絵を描き、油絵画家として生き残ろうとする事への困難さ、またアートギャラリー運営の厳しさなど、肌で感じる不満や奮闘する気持ちとも重なります。その意識は、社会の一員としての「私たちのような」存在が、ちっぽけでもあり、しかし愛らしくもあるという「小さな絵」として表れることになりました。
これまで小村は絵の一部を消したり、土壁を思わせる櫛引やブラシストロークを画面上に施すなど、たえず手法を変貌させてきました。また一貫して、感情を抑制した姿を圧倒的な描写力で捉え描いてきました。その描写力と荒々しい勢いある筆の軌跡が混在することで多様な質感を一つの絵画の中に閉じ込めてます。その絵画には、張りつめた糸のように画面全体を覆う緊張感と、まるで抑制に耐えかね感情が解放された様子が入り交じり、鑑賞者を圧倒し驚きを与えます。
折しも東日本大震災より2年を経たこの時期に開催される今展は、さらにアートマーケットあるいはアートそのものが日本から消えていくような状況で行われます。小さな空間を小さな絵で行う小さな展覧会です。失ったところからの始まりは他でもない創造と密接に関係しています。無から創り出す制作の姿勢は今こそ共感を生み、歩みの力となる可能性を秘め、ここに日本の現代の絵画が表現できていることと思います。
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