桑原正彦は1959年に東京で生まれました。今年の春に開催いたしました1997年のドローイング展"はなとゆめ"では、高度成長期以来の日本の姿を桑原独自の直接的な表現で、風景画として描いていました。今回の"光が丘"展でも、桑原のライフワークとするその姿勢には変わりはないのですが、今という時代の雰囲気を色濃く反映させています。
今回の新作では女性像にスポットが当たっています。昨年の"成形肉"でも女性像は登場していましたが、彼女達は明るい背景のもとにたたずんでいました。しかし今回の新作では伏し目がちに小鳥や子犬に視線を投げ掛けたり、または目を閉じもの想いに浸っているような風情です。彼女達の内省的なポーズに加え、リリカやリナロールといった甘やかなタイトルはなおさら見る者の情緒に訴えかけてきます。しかしながらリリカが神経障害性疼痛の治療薬の名称であったり、リナロールが香料原料の名である事を知ると、そこには桑原流の深い思いが有る事に気付かされます。"光が丘"という展覧会タイトルも、希望に満ちた明るい場所というイメージと、何処にでも有る画一化した新興住宅地の名称でもある事がわかります。成熟した現在の日本、いや成熟した何処の社会でも、両義的な振幅の中に真実が密やかに存在しているのでしょう。その振幅の中の真実にどの様な未来を見るのか、それは個々人によって変わりもするのですが、未来はあるのだという実感と温かさを桑原の女性達は抱かせてくれます。今回の新作の女性達は、絵の力を信じている桑原ならではの現代社会の風景画なのです。
〒550-0003 大阪府大阪市西区京町堀1-17-8 京ビル4F
TEL: 06-6448-3167