1954年生まれのサイトウ・P・ヒロヒサはCFプロデューサー斉藤洋久として、これまで記憶に残る数多くのコマーシャル制作に携わってきました。クライアント、制作、タレントの三者のバランスを取り、ヒットへ繋がる作品を作り上げるプロデューサーという仕事において、斉藤は自らの感性による価値観を絶対的な基軸としています。当時最高峰のCG技術とB級ヒーローを掛け合わせた「ペプシマン」や、人気絶頂のアイドルにギャップのある役柄を演じさせて話題を攫ったサイトウは一貫した「独自の眼」を持ち、ものの価値を既存のアイデアやカテゴリーにおいて判断することはありません。
その「独自の眼」は仕事のみならず生活全般において、また自宅や事務所に所狭しと並べられたコレクションの隅々に反映されています。民芸品、おもちゃ、マクドナルドのおまけ、アンティーク、道ばたで拾った物、そして若手からトップアーティストによる作品は全て自分の価値判断を通して同等に扱われています。これらの膨大なものがサイトウ自身です。今回は30年以上のプロデューサー人生を経た斉藤が、自分自身をプロデュースした初の個展を開催いたします。
『Pの眼』第一弾は「Mao」のシリーズです。歴史的アイコンである毛沢東の肖像をモチーフに、その記号とはかけ離れた、性、資本、死といった欲望を表現します。大量に複製された無個性な毛沢東のプリントの上に、ペインティング・コラージュなどの技法で一見秩序のないイメージを浮遊させて、独自の絵画空間を試みます。また今展では、中国で集めた毛沢東の缶バッジを無数にキャンバスにちりばめた作品と立体作品も展示され、プロデューサーとコレクターの側面を併せもつ、作家サイトウ・P・ヒロヒサとしての新しい魅力を見せます。