『断片となった世界に - 小村希史の「New Paintings 2012」』より抜粋
東京都現代美術館学芸員 薮前知子
<震災から一年半あまりが経ち、すでに多くの表現者たちがその影響を作品として表してきた。しかしその多くが、そこで明らかになった諸問題について思考し、軌道修正したり、センサーシップを働かせたりという論理的なものであったのに対し、生理的なレベルでこれに反応した作家は、意外に少ないのではないか。震災直後に行われた前回の個展の最後にも、小村はあの夜に描いた夥しい数の小さなドローイングを出品していた。それは、津波の風景らしきものが簡便な線で繰り返し描かれ、危機的イメージに対する作家の抵抗を示した生々しいものであった。この展覧会は、その後、作家が辿った変容の軌跡を示すものといっていいだろう。誰もがそうであったように、映像や報道で流された強烈な光景に自らの根底を揺さぶられた経験は、彼に、イメージと自分らとの関わりについて再考させる機会を与えた。津波の映像を見て心中助けを求めたという仮面ライダーや、強く影響を受けてきたという「未知との遭遇」――しかし仮面ライダーの面を被っているのは明らかに自画像であり、映画の風景は、福島のそれに入れ替わっている。イメージは作家の周囲を浸食し、その意識の底に沈殿されているものをあぶりだす。>
2011年3月11日の震災後の小村の絵画がどのように変化し、そして絵画はこれからどのように機能して行くことができるのかという事、小村の心境の生まれ変わりを交えて構成されます。
『僕が絵を描く時に続けてきたテーマには『もろさ』という主題が根底にあります。作品の事だけではなく、小さい頃から『弱さ』(frailty)だとか『不完全性』、『断片性』(fragment)という事に 惹かれ続けてきました。顔の無い人形、色あせた写真、消えてしまいそうな音、今では何に使うか判らなくなってしまった部品らしき物、等々』
「無常」を出発点とする文化を継承する日本人は、特に「脆さ」と深く関わりを持ち、小村の感性もそういった民族性に起因しているのかもしれません。
今展では、多様なイメージをモチーフに、震災直後の影響による白一色による絵画や、物と背景の境界が浸食し合う表現など、様々な方法で一貫して「脆さ」を追求した作品を発表いたします。