松田修は、ジャンクとハイテクとヤンキーとオタクの混ざり合った日本の大衆文化を扱いながら、死や性といった普遍的な主題を追求してきた作家です。低俗さを低俗なままに描くことでときに攻撃的になることも厭わない松田の視線は、あたりまえの日常に潜む狂気を捉え、そのありのままの姿を淡々と描き出してきました。
とりわけ近年では、松田は自分自身が出演する実写アニメーション作品において、きわめて短いループからなる十数秒の凝縮された映像体験を提示するというスタイルを追求しています。それらの映像作品をまとめて昨年に発表されたDVD「ガタピシ!」は、「我他彼此」というものごとが対立したままの状態を意味する仏教のことばから題を取っており、「自分(我)」と「他人(他)」や「こちら(此)」と「そちら(彼)」のあいだに横たわる根源的な対立をそのままにまなざしつつ、今という社会の孤独と絶望を軽快かつ明確に捉えています。「我」という主観的な表現にも、「他」という客観的な記録にも寄りそうことなく、その埋めがたい隔たりを生きる松田のリアリティは、それに触れた者の立ち位置を揺さぶり、しばしば暴力的に関係を迫ります。
2009年の映像中心の個展「オオカミ 少年 ビデオ」から三年となる今回の「ニコイチ!」では、松田の新しい創作コンセプト「ニコイチ」による立体作品を展示いたします。一般に「ニコイチ」とは同じものの欠陥品ふたつから完成品をひとつ仕上げる修理技法(A'+ A"=A)ですが、松田の「ニコイチ」は異なるものふたつから完成品をひとつ仕上げる創作技法(A + B = C)です。「ニコイチ」は一見してコラージュやアサンブラージュに似ていますが、数を指定しないそれらの手法と異なり、あくまで「2」という関係の最小単位から「1」という存在の最小単位へのダイナミズムを追求した、より意識的に先鋭化された手法となります。対立したまま共存するオブジェ群は、「ガタピシ!」のような関係性の限界から、その限界ゆえの希望へとさらに向かう松田の新たな一歩となります。
「ニコイチ」は現代社会に散らばった様々なファウンデッド・オブジェクトを扱いながらも、それらを混沌という心地よい「調和」に陥らせることなく、逃れようのない衝突の抜き差しならない「調停」として提示します。人、モノ、情報のネットワークが急速に整備され、個人、市民、地域、社会、国家、文化、宗教といった様々なレイヤーで「自分」と「他人」の関係がガタピシと軋みを上げる今日において、松田の「ニコイチ」が描き出す乱暴な共存関係は、観る者に多くの刺激と、少なからぬ暴力と、それゆえになおいっそう豊かな示唆を与えるでしょう。
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