「我々はそもそも延々と続くあみだくじの中を生きているように感じる。」と黒川は語る。この謎めいた言葉に我々は彼の作品群を見渡さざるをえなくなる。黒川は、「延々」続くものの承知として何故か脱皮し続ける蛇のイメージを作品の一部として使う。しかし、果たしてこの我々を取り巻く「延々」と続く世界とはまずなんなのだろうか。これを知る手がかりとはなんなのか。奇しくも黒川は、自らも蛇の如く、世界を這いずり、現実には見えてはいないであろう世界を知るための「素材」を把握しようと試み作品をつくっているのかもしれない。例えばそれは、見えない自らの鼓動を支える心臓(生死の境界)とクラインの壺(空間の境界)をミックスしたかのようなかたちの作品として表現され、またあたかもそれはシマヘビが集合しているようにもみえてくる。そしてまた身体と空間の境界を表すようなイメージをともなう。ここにある種の境界を黒川は策定しようと試みているのかもしれない。世界のカタチを把持し、世界とそれ以外のものの境界を認識することは難しい。しかし、境界を蛇のようになら「知覚」することはできるのではないかだろうかと。蛇が這いずるように世界を舐め知覚する様は、単純に認識することとは違うのだとでも黒川は語るかのようだ。世界とはなんなのか。世界と隣り合わせている我々との境界とは。黒川が語る「あみだ」は、決して西洋的な直線的歴史という意味を示しはしない。そこに選択肢は残されている。しかしそれでも結局ある定められたところを逸脱するには至らない「あみだ」の世界。しかし黒川はそんな定められた退屈な「あみだ」の線であってもそれをたんに歩くのではしかたないとかたるかのようだ。這いずりまわり、捻れ、蛇行すれば、世界の見え方は変わるとでも黒川はいっているのであろうか、それこそがつまり、世界をいかに知覚するかということ、立体的に把持することであると。こたえは、黒川の新作にあるのかもしれない。
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