今回テラでの初個展となる澤崎は、現在京都を拠点に活動しています。
本展覧会では、作家がこれまで問題としてきた芸術における自明性への問いかけとともに、その実践をより歴史的・社会的な出来事と接続した地点から捉えなおす試みを行います。歴史的な出来事と個人体験の交差する場面を、作家の祖父が残した手記のなかより敷衍することから始まっています。歴史的事実の自明性を揺さぶるなかから、未完結なるものとしてのアクチュアリティを見いだし、それを現代に対峙させることを目指しています。
新作として、1930〜40年代に日本人ながら中国人歌手として中国で活躍した李香蘭に作家自身が扮した映像作品などを発表予定です。
- Artist statement -
本展覧会の主たるモチーフはふたつあります。わたしの祖父澤崎正恵が生前に残した日記のなかに記されたメッセージや記録と、李香蘭(山口淑子)という中国人として一世を風靡した日本人歌手・女優です。
李香蘭は1937年に満洲映画協会の女優となり、中国・日本で人気を博し、戦時中は上海の映画界で活躍しました。後の1945年8月9日、李香蘭は上海競馬場でリサイタルを開催しています。本当は日本人であるにもかかわらず、中国人として認知されていた李香蘭は、漢奸(中国人として祖国を裏切った)容疑で中華民國の軍事裁判に掛けられ、危うく処罰されかけました。
李香蘭が満洲映画協会からデビューした1937年、祖父は第二次上海事変の勃発にともない、陸軍の一兵士として上海に上陸しました。祖父はこの戦争で瀕死の重傷を負い、命からがら日本に送還されました。彼はこのときの体験が忘れられず、終戦後、小学校教員として勤務した祖父は、生涯にわたって彼の体験について後世を生きるわたしたちに語って聞かせました。
わたしはこれまでの作品制作において、芸術における自明性への問いかけを喚起させるために、いくつかの方法論を実践してきました。本展覧会では、この実践を祖父と李香蘭というふたつのモチーフを介して試みることによって、個人的な体験と歴史的な出来事が絡まりあう場面から、未完結なものとしてのアクチュアリティを見いだし、それを現代に対峙させることを目指しています。
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