笹口数は、見るものの表層にははっきり現れないもの、また見えているものの背後にあって普段意識されない仕組みを、いくつかの断片をもって私たちに提示する。
そこには、今日の電子メディアの発達がもたらす、時間や場所、物への知覚の急速な変化に対するメッセージが隠されている。
高度に発達した通信メディアが可能にする、世界のどこにでも存在し得るかような感覚は、「わたし」を、「いま、ここ」からどこにでも遊離し偏在する幻に仕立て上げようとしている。もはや身体はその振る舞に含まれる多様な意味を放棄し始めたのだ。
一方で、日常わたしたちがより高速度かつ大量 に触れることになった情報からは、その多様な理解を支える経験や記憶の歴史との関わりが削ぎ落とされ、目にする情報は瞬時に判断されうるだけの表層の影となりつつある。
「 暈 影 ( un - ei ) / shadow or ghost 」と題された今回の個展で笹口は、人体のポーズに思い浮かべるイメージを影になぞらえて表現する。実像と幻の間を揺れるおぼろげに見えるポーズに、重ね確かめられる身体性と記憶についてを見つめ直す。
その、対象の要素を削ぎ落とした表現に、私たちは自らの記憶や経験を重ね合わせることで心の中にイメージをかたちづくることになるだろう。
笹口の作品を糸口に、私たちは情報を成立させる仕組みや歴史がかたちづくる森に分け入っていくことになるのである。
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