伊庭は、クッションや陶器など、日常のオブジェクトの持つ質感や光、空気を、絵画上に引き 出すことで、観る者の五感に訴える作品で知られるアーティストです。
1967年、京都に生まれ、1990年代前半から、画家としての活動を始めた伊庭は、一貫して、日常的な対象物を写真で撮影し、それを拡大して、キャンバスに転換するという手法で絵画を制作してきました。その作品は、一見、非常にリアルに見えますが、近寄ると輪郭はぼやけ、アブストラクトな様相をも呈し、キャンバスの表面にはアーティストが作品と格闘したであろう痕跡としてのブラシさえ残っています。
今回、MISA SHIN GALLERYでの初の個展となる本展は、「風景」を描きたいという伊庭の、新しい境地への挑戦です。新作の油彩7点を含む本展では、モチーフとしての陶器を、これまでの、 模様の部分の輪郭をぼかしてグラデーションをつけて描く方法から、光の部分をはずして浮き立たせることで、あたかも「光が張り付いているような」な視覚表現を試みています。
風景について、伊庭は菱田春草の『落葉』を引用して語っています。 「『落葉』では、何も描かれていない空白にある奥行や距離感に魅力を感じます。木々に張り付いている苔やそれらが織りなす模様が、絵画の中の空間とは別のものとして存在している感じに惹かれます。風景を構成する絵の要素としての模様や光の効果により、質感や空気感を表現したい。」
器のすがたを愛でる時、「景色」という言葉を使います。新作において、釉薬を通して見える表面の模様は、反射する光によって、あたかも近景と遠景の間の空気感を観るように曖昧になります。それは、これまでの観るものの感覚に直接訴える方法から、観るものが絵画の中に能動的に探っていく方法へと促す変化でもあります。
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